the NIKKEI-watcher



VOICE


小泉総理大臣 殿


「政治家の痛みを示せ」
去る4月26日、あなたは衆参両院本会議での首相指名選挙を経て、日本の第87代首相に就任した。それから既に6カ月弱が過ぎ去った今日まで、あなたが、あなたの所謂”小泉改革”によって生じる「政治家の痛み」について、たった一度でも、国民に語ったことがあったであろうか?あなたが、国民が覚悟せねばならない「痛み」について得々と語るのは、たびたび耳にした。あなたは何故、「政治家の痛み」に言及しないのか?お得意の派手なジェスチャー入りで、簡潔・断定・繰り返し語法を駆使し、あなたはなぜ、「政治家の痛み」について語らないのか?

このウェブサイトでも取り上げているように( Japan Problem/日本の財政赤字/「痛み」)、すでに5月31日の日経新聞夕刊のコラム”さらりーまん生態学”で、作家の佐藤洋二郎氏は、「痛み」についてこう語っている。
国民に「痛み」という背水の陣を張らせるなら、政治家にも退路を断ってもらいたい。
あなたは、この日本経済の惨憺たる現状に対する責任が、どこにあると考えておられるか?国民と政治家と、どちらにより重い責任があるとお考えか?責任がより重い方が、より「痛み」を感じるような社会でなければ、あなたが如何に声高に「小泉改革」を唱えようが、空虚に響くだけだという簡単な事実にすら、あなたは気づいていないのであろうか?責任がより重い方が、より「痛み」を感じるべきだと考えることができない人間に、教育改革を云々する資格があろうか?あなたはなぜ、「政治家の痛み」について触れようとしないのか?

世間一般に、「政治家の痛み」の中身に関する誤解が、幅広く行き渡っているように思われる。小泉首相、あなたもあるいは、その一人ですか?あなたは、”あなたが「政治家の痛み」を示さない”という私の問題提起そのものに、疑義を覚えるかもしれない。”何を寝言を言うてる。オレ達が必死で取り組んでいる特殊法人改革、公共事業投資10%削減、国債新規発行額30兆円以下目標、不良債権処理、すべて政治家に大きな痛手を与えるものではないか”、こうあなたは言いたいのではないか?
確かに特殊法人にからむ後ろ暗い金や、公共事業投資の利権をめぐる訳のわからない金が、回りまわって政治家に渡っているような話はよく聞く。国債の新規発行額を30兆円以下に押さえれば、それだけ無駄遣いが減り、廻りめぐって政治家の懐に流れる金も減るかもしれないし、不良債権を処理すれば、それに群がる火事場ドロの如き連中は、「痛み」を蒙るかもしれない。

しかし、それら「小泉改革」によって政治家連中が蒙るであろう「痛み」と、国民が蒙るであろう、いや既に蒙っている「痛み」を、同等に扱ってよいのであろうか?利権という既得権益の一部を失うだけの「政治家の痛み」と、職を失い、あるいは支払うべき筋合いのない余分の「税金」を支払わされる国民の「痛み」が、同等のものであるわけがない。日本ではこのように、ほんの少し考えを廻らせれば誰もが可変しいと思うような事柄が、平然と社会に居座っていることがしばしば見受けられる。作家の高村薫氏いうところの第二次世界大戦以来の国民の「思考停止」状況が、日本の社会に充満していることのひとつの表れだと、私は推測している。小泉首相、もしあなたが、それをもって「政治家の痛み」と考えているのなら、あなたは、わが国日本のために、即刻身を引く道を選ぶべきである。

あなたが経済音痴なのは、よく知られた事実だ。問題は、経済音痴にもかかわらず、あなたがご自分の経済政策に頑固に固執していることだ。特殊法人の一部を廃止したり統合したりすることで、果たして今後の日本にどれほどの改善をもたらすというのか?公共投資を10%削減すれば、利権政治家の懐は10%だけ「痛む」かもしれない。あなたもよくご存知の日経新聞の田勢康弘編集委員によれば、あなたは、ワイドショーが描き出しているような”うぶ”な政治家ではないという。まさかあなたは、あなたの所謂「抵抗勢力」に残り90%の利権を保証することで、自民党内を丸く治めようとしているのではないでしょうね?
旧態以前たる建設・土木といった公共事業投資先を、IT産業関連に振り替えることにより投資効率を高める、という竹中平蔵経済財政担当相の意見もあるようだ。経済理論的には正しい考え方であると認めよう。しかし現状の公共事業投資に関わる税金の無駄遣いと言われるものは、単なる投資効率だけの問題ではないはずだ。入札における談合、入札価格の水増しとその一部の政治家への還流、あるいは手抜き工事等々といった経済というよりは政治に絡む諸問題が、税金無駄遣いの主たる要因であるはずだ。公共事業投資先をIT産業関連に振り替えることで、すべて解決するのであろうか?過去に、大手通信メーカーと防衛庁の入札に絡む癒着問題が明るみに出たことは、未だ記憶に新しい。これらは、人の問題、組織の問題、ものの考え方の問題であり、投資効率という経済問題とは異質の問題である。これらは、社会構造の問題である。

小泉首相、あなたが、公共事業投資を10%削減し、あるいは投資の中身をより効率的な事業向けに振り替えることで、税金の無駄遣いを無くせると考えているなら、それは大きな間違いだ。あなたがやるべきことは、利権政治家の懐に10%の「痛痒」を与えることではなく、彼らの懐に150%の「激痛」を与えることだ。
あなたはなぜ、「政治家の痛み」について声高に語らないのか?あなたが政治家に「痛痒」しか与えられない、「激痛」を与えられないのなら、あなたの所謂「小泉改革」なる構造改革は、底の知れた、先の見えたしろものである。経済音痴にもかかわらず、頑迷に「小泉改革」に固執し、既に重病の日本経済を破局に導こうとしているあなたは、わが国日本のために、即刻身を引く道を選ぶべきである。

あなたは、去る4月に実施された自民党総裁選挙あるいは7月に実施された参院選挙前の複数の発言において、自分は自民党を出ない、党の内から自民党を良くしていく、こう明言した。最大政党を誇る”温室”自民党の中に居残って、自らの政党が垂れ流してきた財政赤字の改善のため、国民に得々と「痛み」に対する覚悟を説く一方、「政治家の痛み」についてはひと言も触れない。このような人間の言う「小泉改革」なるものが、実は、可愛い可愛い自民党を自滅自壊から免れさせる為に、国民の前に、我われはこれだけ努力しましたとアピールする為だけの成果を目的としていたとしても、私には何の驚きもない。
7月9日の日経新聞夕刊2面は、参院選を前にして8日、兵庫、大阪で街頭に立ち全国遊説に突入した小泉首相の演説内容を、次のように伝えた。
改革に反対するなら、小泉が自民党をぶっつぶします。』『多くの有権者は小泉は支持するけれど「自民党に勝たせたら小泉の改革をつぶすんじゃないか」と心配している。そんなことはできません。』『「小泉は参院選向けだけで、もう用が終わった。勝てば小泉の改革はもうつぶしちゃえ」と万が一、自民党議員がそんなことを考えたら、私が、小泉が自民党をぶっつぶします。

あなたは、森喜朗前首相の下で、森派会長として徹底的に裏方で森政権を支えてきた。昨年11月の政界ハプニング「加藤の乱」においては、YKKの盟友加藤氏を裏切ってまで、派閥の親分森喜朗前首相を擁護してみせた。( Taka remarks/小泉純一郎氏/「加藤の乱」)あなたは、当時の自らを顧みて、「政策の小泉から、政局の小泉に変身した」と語った。
政治家「小泉純一郎」にとって、何が一番重要なのか?あなたはいま、声高に「政策」=構造改革を唱えている。もしあなたが「加藤の乱」においていみじくも示したように、政治家とは、その時どきの「政局」に応じてベストと思われる行動をするべきだと考えておられるなら、あなたがいま声高に唱えている「政策」=構造改革も、「政局」が変われば何処へかふっ飛んでしまうこと必定である。
8月3日付日経新聞朝刊2面は、自民党の山崎拓幹事長が2日、宮城県蔵王町で開かれた連合サマー・トップセミナーで講演した内容をかいつまんで報じている。問題は、朝日新聞などが報じた同氏の発言の一部が、意図的かどうかは別として、取り上げられていないことである。
山崎幹事長は、こう語ったそうだ。『一種のお経みたいに「構造改革」「構造改革」と言っていれば人気が上がる。

あなたが、政治家として、「政策」を最重視する人間であるなら、「加藤の乱」の時に、あなたにはチャンスがあった。加藤紘一氏と共に、あなたが現在採っている「政策」とかけ離れた「政策」を遂行していた前森政権を引き摺り降ろすチャンスが。それはおそらく、民主党をはじめとする野党を巻き込んだ大掛かりな政界再編成となり、少なくとも現状の、最大政党自民党を中心とする強力与党対弱小野党という構図よりは、国民にとってましな政界地図が出来ていたに違いない。しかも、いまの日本にとって最も重要である数ヶ月という時間を、無為に潰したことになる。
あなたが如何に声高にお得意の派手なジェスチャー入りで、簡潔・断定・繰り返し語法を駆使し、「私が自民党をぶっつぶします」と絶叫しようが、”温室”自民党を出ない、自民党の内から変えていくと言い、「政局」にあたっては、自分の「政策」よりも自派閥の親分の面子と第一党としての自民党の存続に重きを置く人間に、「政策」のために、可愛い自民党をぶっつぶすようなことができようか?答えは、明らかである。

あなたの所謂「小泉改革」なる構造改革は、ほんとうは国民のためのそれではなく、実は自民党のための構造改革ではないのか?だからこそあなたの言葉の中には、日本の農業をはじめとする弱小産業を保護する「セーフガード」や、医療行政、大きな赤字を抱える健康保険や国民年金の問題に関しては、多額の国民の税金の投入が余儀なくされているにもかかわらず、それが自民党の大票田の一翼を担うが故に、特殊法人・公益法人に対するが如き明確な発言が出てこないのではないか?そしてだからこそ、あなたの言葉の中には、「政治家の痛み」に関する言及がないのではないか?
もしそうなら、あなたは、わが国日本のために、即刻身を引く道を選ぶべきである。

4月30日付日経新聞朝刊1/2面が報じた小泉新政権発足時の支持率調査は、80%という国民の新政権に対する異常な期待度を示した。( Japan Problem/国民の政治意識/小泉内閣のお化け支持率
あなたは、国民があなたの新政権に何を期待していたか、よもや忘れてはいまい。国民は、あなたに「景気回復」と「構造改革」の難しい両立と調和を期待して、支持したのだ。その後7月29日に参院選挙が実施され、小泉内閣は国民の信任を受けた。この時点においても、国民があなたに何を期待して票を投じたか、あなたはよもや知らないとは言うまい。株価は、小泉新政権発足直後の5月7日を高値として、その後急坂を転がり落ちるようにバブル経済崩壊後の新安値を記録した。このような状況下において、あなたが「靖国参拝問題」で示した頑迷で旧態依然たる先送り体質は、「景気回復」と「構造改革」の両立と調和を夢見る国民の期待に沿うものであったと、あなたはよもや言うことはできまい。

「靖国問題」でこじれた中国との関係を修復すべく、米英軍がアフガニスタンに対し米同時テロへの報復攻撃を開始した10月8日、あなたが日帰りで中国を訪問し、北京市内で朱よう基首相、江沢民国家主席と会談したことを、9日付日経新聞朝刊1/2/5面が報じた。同紙はまた次のように伝えた。『小泉首相は、会談に先立って、日中戦争の発火点となった北京郊外のろ溝橋と抗日戦争記念館を訪問し、「犠牲になった人の悲痛さ、戦争の悲惨さをおわびと心からの哀悼をもって拝見した」と表明した。
これに関し、中国側に、次のような見方があるのを、あなたはご存知か?すなわち小泉首相は、A級戦犯が合祀されている靖国神社を8月13日に、内閣総理大臣小泉純一郎と記帳し参拝し心よりの哀悼の誠を捧げた。10月8日には、抗日戦争記念館を参観し、「侵略で犠牲になった中国の人々に対し、心からのおわびと哀悼の気持ちを持って展示を見させていただいた」と語った。これら二つの行為の間には、大きな矛盾がはらまれている。小泉首相は、そのことにすら気づいていないようだ、と。

小泉首相、以上のことについて深く考慮していくと、あなたは、やはり二重基準(ダブル・スタンダード)の持ち主ではないかと強く憂慮される。あなたが、日本の第87代首相に就任してから、既に6カ月弱が過ぎようとしている。あなたは未だ、国民の80%に近い支持率を受けているようであるが、国民の期待は、既に充分裏切っているようだ。
日本のMass Mediaおよび相当数の人々が、あなたの所謂「小泉構造改革」に期待を寄せているようであるが、いまの日本の経済を取り巻く環境は、”Better than Nothing”を選択できる時間的余裕のある状況ではないはずだ。政府に求められているものは、”Best”の選択である。「構造改革」自体が誤った政策であるとは、誰にも言えない。しかし、「小泉構造改革」には、上述してきたように、実に危うい部分が垣間見られる。現在の日本は、危うい「小泉構造改革」を”Beter”との理由だけで支援し、日本経済破綻の時限爆弾が爆発する前に、事態を解決するのに間に合わない道を突っ走っているようで、たいへん憂慮される。いま求められるべきものは、”Best”の政策だ。

小泉首相、あなたはなぜ、「政治家の痛み」を語らないのか?いま日本で求められる”Best”の政策の一つは、明らかに政治家に「痛み」を覚悟させることである。もしあなたが、「政治家の痛み」について言及することができないのなら、あなたは、わが国日本のために、即刻身を引く道を選ぶべきである。
(2001/10/14)


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