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<Taka remarks>
速水優氏
「動かぬうぬぼれ屋」
7月18日付日経新聞朝刊は、サミット出席を前に17日ホワイトハウスで行われた、米国ブッシュ大統領とサミット参加国の主要報道機関との会見内容を、第一面トップで取り上げた。その片隅に、日本銀行の速水優総裁が17日の記者会見で、『景気の下振れリスクが強まっているとしながらも、追加金融緩和については「切羽詰った必要性はない」と述べた上で、「(構造改革によって)企業側の需要が強くなって初めて、金融は次に何をやるべきかということになる」と語り、追加緩和に先駆けて構造改革に踏み出す必要性を強調した。株価は「重大な関心を持って見守る」と語った』との報道があった。
この記事には私もいささかカチンときたが、私以外にも少なくとも一人、同様に感じた人物がいたようだ。
DATE・・・・2001/07/23(M-29)
記者 ・・・・編集委員 藤井良広
TITLE ・・・”景気指標”/日銀とコロンブスの卵
『先週気になったのが、経済のかじ取り役の一人である速水優日銀総裁の記者会見での発言だ。市場で浮上するインフレ目標論に触れ、「金融政策の説明責任を高める手段としても、現在の物価情勢や政策を取り巻く環境を踏まえると、採用は適当でない」。』
業界用語の連続で難し過ぎる表現ではあるが、要は、速水日銀総裁は「今はデフレだからインフレ目標論の採用は適当ではない」と言っている。これに対し藤井氏はこう反論している。
『インフレ目標論の台頭は、デフレの現実があるからだ。消費者物価指数(全国総合、生鮮食料品を除く)の対前年伸び率は1998年7月から連続マイナス(ゼロを含む)記録を更新中。デフレ深刻化の要因は多様だ。バブル期以来の過剰生産・過剰在庫の継続、国境を超えた価格破壊の浸透、新規需要を喚起する新製品・サービスの不在ーー。(従って)日銀がそのすべてに責任を負うわけでもない。だが金融政策を担うのは日銀だけだ。インフレ目標を、経済成長に見合う物価安定を示す羅針盤と位置付ければ、日銀はデフレ下の経済を羅針盤なしで航海しようとするようなものだ。』
速水日銀総裁は、なかなかしたたかな人物である。彼は、いま現在インフレ目標論の採用が不適当な理由として、二つを挙げている。一つは「現在の物価情勢」であり、これに対する藤井氏の上記の反論はまさに正論で、速水氏といえども反駁は難しかろう。問題は二つめの理由、すなわち「政策を取り巻く環境」である。速水氏はこう言いたいのだ。政府の言う「構造改革」はまだ踏み出されていないから、いまはインフレ目標論を採用する環境にない。インフレ目標にせよ、追加金融緩和にせよ、政府が構造改革に踏み出してから初めて、「金融は次に何をやるべきか」という話になるのだ。
要は、速水日銀総裁は、政府に構造改革を早く推進せよと圧力をかけているつもりなのだ。インフレ目標論や追加金融緩和を、駆け引きのの道具に使って得意になっている図が透けて見える。
藤井氏は、速水日銀総裁の常套手段など百も承知だ。
『最近、米連邦準備理事会(FBR)で、「ポリシー・リアリスト」との表現がはやりという。政策的現実主義者と訳すのか。要するに、政策手段の是非論に終始することなく、とにかく結果を出すことを最重視する政策姿勢である。FRBは米景気と株価の軟着陸が使命。日銀にとってはまさにデフレの封じ込めだ。』
藤井氏は、こうダメ押しする。『「物価の安定を図る」という日銀法の理念に照らせば、「現在の物価情勢」は明らかに逸脱している。』
『わが国の財政・金融政策には出尽くし感が強く、経済の閉塞状態を打開するには、思い切って構造改革の海に船出する以外ないのは間違いない。と言って、羅針盤もなく、あてもない船出では難破のリスクを負う。』
『バブル発生やその後の処理の不手際を見てきた国民が、指針なしでも日銀を信頼し続け、「痛みを伴う改革」を受け入れると思うなら、日銀マンは相当なうぬぼれ屋ということになる。リアリストか、動かぬうぬぼれ屋か。後者なら日銀はいつまでたっても、事態を打開するコロンブスの卵を手にできないだろう。』
上記は、7月23日付の藤井氏の記事によるものであるが、遡る11日付日経新聞朝刊5面で、当時来日中のフィッシャー国際通貨基金(IMF)筆頭副専務理事による前日10日の記者会見の内容が小さく報じられている。
『日銀の金融政策について「追加緩和の余地はある」と述べ、景気を下支えするため一段の金融緩和措置が必要だとの認識を示した。さらに、日銀が追加緩和策をとれば「円安につながる」として、結果として円安による景気刺激効果も期待できるとの考えを示した。』
また19日付日経新聞朝刊5面が、日銀が18日公表した6月14、15日開催の政策委員会・金融政策決定会合の議事録要旨を報じている。それによれば、
『追加緩和策についても議論され、多くの委員が「日本経済の先行きは不確実性が高く、情勢が悪化した場合に金融政策面で取り得る対応についてはさらに検討を深めていきたい」との認識を示していたことが分かった。ある委員は「何年先といった期間を明示したインフレ目標の設定などを検討する必要がある」と主張。別の委員も「当座預金の増額や長期国債買い入れの効果についてさらに検討していきたい」と述べた。』とのことである。
政府が構造改革に踏み出すまでは追加金融緩和はすべきでない、と誰かが言ったのであろうか?議事録が言っているのは、「先行きの経済情勢が悪化した場合には」ということであり、そういう事態が、政府が構造改革に踏み出す前に来るか後に来るか誰も確実に言うことはできない。要は、構造改革の前であっても、経済情勢が悪化したら追加金融緩和はおこなわれるべきだ、というのが議事録の内容である。
速水日銀総裁の言っていることと食い違っているではないか。いつもこうなのだ。自分の個人的かつ政治的主張を、記者会見の場であたかも日銀全体の統一意見であるが如くに、トクトクと発言するのだ。余談ではあるが、このパターンは、実はかの85%の国民支持率を誇る小泉首相とも一脈相通ずるところのあるものである。
私は、速水日銀総裁に、ひとことだけ言いたい。”That's none of your business.”
最後に、21日付日経新聞朝刊20面の”シンクタンクの視線”というコラムにおける、嶋中雄二三和総合研究所投資調査部長の次のような視点を取り上げたい。
『今回の(景気)後退がいつまで続くか、エコノミストの意見が分かれている。現在、やや優勢に見えるのは先行きに関しての悲観的な見方である。景気後退の中で、さらにデフレ的な負荷を日本経済にかけようとする小泉純一郎政権の構造改革断行と、米国を中心とする底の見えない情報技術(IT)不況の複合効果により、今週から来春にかけてデフレスパイラルが引き起こされることを懸念するものだ。
もう一つは、そこまで悲観的ではない。先行指標の動きなどから見て晩秋ごろまでの景気の落ち込みは避けられないが、このところ住宅着工や個人消費の減退に歯止めがかかり、機械受注の達成率も下げ止まってきた。これまでの減産や円安の効果に加え米国景気も秋以降回復の公算がある。今後、日銀が追加の量的緩和を実施し、政府も需要に配慮して都市再生策の前倒しなどによる補正予算編成に取り組めば、景気の悪化は晩秋にも止まり、年末ごろから持ち直しに転ずるという見方だ。
筆者は基本的に後者の見方である。だが、日銀の追加緩和は一向に実現していない。次回8月の金融政策決定会合でも日銀が動かなければ、筆者のシナリオも前提が崩れ、再検討せざるを得ない。』
「動かぬうぬぼれ屋」が、「動くリアリスト」になるのかどうか、誰もが注目している。
(2001/07/28)