the NIKKEI-watcher

<Taka remarks>

小泉純一郎氏
  「信なくば立たず/やってから考える/急いてはことを仕損じる」


「小泉政権の寿命」
ーー自民党総裁公選規程改正ーー




話は2000年4月、森喜朗前首相誕生時のいきさつにまで遡る。いわゆる「五人組による密室談合」と批判された経緯で生まれた森前政権の一年は、最後まで、本人自身が言うところの「ガード下から拾われてきた赤ん坊」の印象を払拭することができずに終わった。加えて数々の失言と、外務省元室長による官房機密費流用事件、ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)事件など重なるスキャンダルにより、政権後半の内閣支持率は10%台を上回ることはなかった。森首相(当時)を担いだ自民党は、2000年6月の衆院総選挙において惨敗を喫し、2001年夏の参院選挙においても、惨敗間違いなしの予想が一般的であった。

この自民党の状況を憂慮したのが、地方組織や中堅・若手議員であった。参院選に向けての決起集会であった3月13日の自民党党大会は、もはや党内に溢れる憤懣に、不人気森総裁の退陣表明なくして乗り切れる状況ではなかった。
3月10日の日経新聞朝刊2面の小さな記事が、状況をよく伝えている。

岐阜県議会の自民党県議39人でつくる会派「県政自民クラブ」は9日、12日に予定されている全国幹事長会議で次期総裁選について党員による全員投票の実施を党則に盛り込むよう求める方針を全会一致で決めた。これを受け、県連幹事長を務める船戸行雄県議は県庁で記者会見し「解党的出直しをするなら、全員投票で一票の重みを尊重するべきだ。離党も辞さない覚悟で(全員投票を)強く要請する」と強調した。さらに「党則に盛り込まれるメドが全く断たない場合は、13日の党大会は欠席する」と述べた。

同紙面にはまた、『自民党の政治制度改革本部の太田誠一本部長が9日、13日の党大会で党執行部が報告し党則改正を両院議員総会で行なえるよう一任を取り付けるため森首相(兼党総裁)を訪ね、「総裁任期および選出方法に関する答申」を手渡した』という記事が報じられた。
答申の内容は、
@総裁任期を2年から3年に延長し、2期6年までとする。
A党所属議員の一定以上の求めがあれば、総裁の人気途中でも臨時総裁選を行えるようにする。
B総裁選への出馬要件である30人の推薦議員の条件を引き下げる。
C総裁選での党員の郵便投票を改め、総裁選選挙区を設け、選挙区ごとに直接投票を行なう。
さらに、4月の総裁選前倒しを念頭に「緊急かつ必要な事態が生じた場合には、この改正の趣旨を踏まえた新たな総裁の選出が図られるべきだ、とも明記。

3月11日の日経新聞朝刊1面が、森首相が10日夜、首相公邸に古賀誠幹事長ら党五役を呼び、『参院選の必勝体制を築くため、秋の総裁選を繰り上げて実施する』との表現で、辞意を表明したことを伝えた。森首相は13日の党大会のあいさつでも、『総裁選は、(党員の)幅広い意思を反映する形で繰り上げて実施する』と表明した。これを受け古賀幹事長ら党執行部は、国会中に党員・党友を含めた本格的な総裁公選を実施するのは時間的物理的に無理と判断するものの、脳卒中で倒れた故小渕恵三首相に代わる森後継総裁選出にあたって「五人組の密室談合」と世論の批難を浴びた経緯を踏まえ、次期総裁選は衆参両院議員と都道府県連代表による両院議員総会での投票により4月中に実施をする方向で本格的な調整に入った。

3月13日の日経新聞朝刊1/2面は、『12日に開かれた全国幹事長会議では、都道府県連から、「開かれた総裁選を実施すべきだ」「党員票の割合をもっと高める必要がある」などの意見が相次いだ。現在は1万人で1票に換算されている党員票について、党員一人1票として新総裁を選ぶよう求める声も多かったが、古賀氏は「一票の重みが国会議員と党員は違う」と否定的な考えを示した』と報じた。
国会議員の「数の論理」では橋本派に劣る総裁派閥の森派は、同派会長の小泉純一郎氏の総裁選擁立を念頭に、『できるだけ多くの党員票を総裁選の結果に反映させるべきだ』と主張。一方の橋本派、堀内派は、党員の参加をできるだけ限定し、議員票を最大限活かせる選挙にした方が有利との思惑があった。
しかし橋本派内においてすら、自民党各派閥が競って候補を立てた中選挙区時代を知らない小選挙区世代の当選一、二回生の間では、自民党への逆風を肌で感じ、今回の総裁選は是が非でも「開かれた透明性のある総裁選」にすることがなにより肝要と考える議員が多く、『橋本派としても特定郵便局長会などの職域党員に強みを持っており、地方票の配分が増えても、その「系列支配」を通じて橋本派に有利な展開となるのは変わらない、との判断にかたむき、地方票の拡大に前向きの姿勢を見せ始めた。具体的には「現在の47票に各都道府県連で青年部、女性部一票ずつ増やし、全部で141票とする」案が検討されているという。

こうして3月16日の日経新聞朝刊2面にはすでに、『古賀幹事長ら党執行部は、4月中の総裁選を念頭に、都道府県連の票を現在の1票ずつから3票に増やすことなどを柱に、実施に向けた調整を本格化する』との記事が報じられている。

23日、古賀幹事長は、森首相の後継総裁任期を「(党の規約上)9月まで」と明言した。党の現行規定では、任期途中での辞任は、都道府県連は一票ずつの投票となっている。

25日になると、日経新聞朝刊2面が、『党の地方組織で、どの候補者を押すかを地域ごとに決める「予備選」の動きが目立ってきた』と報じた。『地方ではすべての党員が参加できる投票形式や地方の票拡大を求める声が多く、こうした動きは、「保守王国という看板に安住していては参院選を戦えない」(群馬県連)との危機感が強い、従来自民の地盤が強いとされてきた地域でもみられた』ということである。

このような折、25日投開票の千葉県知事選で、政党の推薦や支持を受けない無党派候補、前参議院議員の堂本暁子氏が当選し、長野、栃木両県知事選で吹いた既成政党離れと無党派の風が確実に広がりつつあることを印象づけた。与野党ともに今回の千葉県知事選を今夏の参院選の前哨戦と位置づけてきただけに、自民党にとっては、有権者が反自民感情を地方選の投票であらわにしている状況に、民主党にとっては、その反自民感情による投票が自党に流れてこない状況に、ともに危機感を募らせた。

28日の日経新聞朝刊2面が、ここにきて『総裁選の実施方法、時期をめぐり、首相周辺と「森降ろし」政局を主導した党執行部や野中氏らとの駆け引き』が慌しくなってきた状況を報じた。
まず、3月13日の党大会において自らの進退と引き換えの形で、『幅広い意思を反映する総裁選』の実施を指示した森首相率いる森派のポスト森、後継総裁戦略が浮かび上がってきた。24日森首相は、『「限りなく党員・党友が参加できる案を、私は二つ持っている」と記者団に語った。首相周辺によると、この一つが予備選の実施』ということらしい。森派の後継総裁候補である小泉純一郎同派会長は、郵政三事業の民営化などにより一般の知名度が高く、広く世論を反映できる予備選を導入することは同氏に有利に働くとの判断がある。『首相の意向を受けて、森派議員が力を持つ群馬、山口、千葉、神奈川のほか、東京でも予備選実施の動きが出てきた。

こうした森派の戦略と、世間の逆風を肌で感じている地方組織、若手・中堅議員の「開かれた総裁選」に対する強い要望に配慮した古賀幹事長ら党執行部は、『4月20日前後の総裁選と連休前の新内閣発足という段取りを描いている。現在は1票ずつの都道府県連票を3票に増やす方針だが、地方の要求がさらに高まる場合は、5票に拡大することも視野に入れる。この地方票をだれに投票するかを決めるために予備選を実施する』との報道があった。
青木参院幹事長も同27日の記者会見で、『県連独自で代表を出すためにやるのは自由だ」と明言し、県連独自の予備選を容認する姿勢を明確にした』という。


4月4日、森首相は古賀幹事長と会い、党総裁選の日程と実施方法に関する「三つの指示」を出した。
@投開票日を24日とする。新内閣発足は26日。
A全都道府県連での予備選の実施と各県連票の1票から3票への拡大。
B立候補に必要な推薦人の数の30人から20人への引き下げ。
5日、総裁選挙管理委員会(谷川和穂委員長)が、上記内容を了承。

6日の日経新聞朝刊3面に、結果的にこの総裁選を左右することとなった最後の重要な一点についての記載があった。
今回、東京都連や神奈川県連などが計画している予備選は、24日の投開票で各県連代表がどの候補者に票を投じるかを、従来のように県連幹部らがトップダウンで決めるのではなく、党員による予備選の投票結果をそのまま反映させる仕組み。執行部は「具体的な方法は各県連に任せる」としており、予備選1位の候補者の総取りになるのか、比例配分となるのかは各県連で異なる。郵送か投票所設置かなど投票方法も分かれる見通しで、それだけに地方票の動向はこれまでよりも読みづらくなる。

同日の日経新聞夕刊2面”ダイジェスト”に、今回の総裁選ではなく、次回以降の総裁選に影響を及ぼしそうな、やはり重要な記事が掲載された。
6日の自民党役員連絡会で、森首相の後継を選ぶ次期総裁選で各県連に3票を与える党執行部方針について、小泉純一郎森派会長の擁立を目指す同派の伊藤公介事務総長が反発し、「了承できない。先の全国幹事長会議でも小選挙区に1票を与えるべきだとの声が出ている。地方には小選挙区に1票ずつ、合わせて300票を配分すべきだ」と主張した。古賀幹事長は「それは9月以降の話だ」と一蹴。野中広務前幹事長は「議員を当選させられない選挙区の党組織に票を配分するのはどうか」と疑問を呈した。太田誠一政治改革本部長も「名簿の点検が間に合わない」と指摘した。

10日の自民党全国幹事長会議では、都道府県連代表から総裁選での一層の投票数拡大を求める声が噴出し、党執行部による地方組織の抑えがきかなくなっている実態を、11日の日経新聞朝刊2面が伝えている。
総裁選の投票は各県3票ではなく、4票にして、党員の意思をもっと反映してほしい」。幹事長会議で北海道代表が切り出すと、役10ヵ所の地方代表から同じ意見が出た。各県連幹事長は会議に先立ち、党本部に集まって意思統一。党大会に出席できる代議員の数の割り当てが4人ずつであることを根拠にしての要求だった。
3月の党大会でも各県連は同じ方法で「党員投票の拡大を」と足並みをそろえ、従来の1票ずつから3票への拡大を勝ち取った実績がある。地方議会の議員が中心となる各県連は党員獲得の窓口となっており、県連の不満の声は特定郵便局長会など「職域党員」の間で、
7月の参院選を控えた危機感が高まっていることの表れでもある。
今回は古賀幹事長の「皆さんの声を入れて、地方票を増やしたことを理解してほしい」との発言でひとまず会議は終了したが、地方代表の不満は「了承していない。執行部の意識は地方とかけ離れている」(静岡)「何のために今日の会議はあったのか」(宮城)「時間の無駄だ」(東京)など、異議申し立てが相次いだ。今回、短期間で全国に広がった独自の予備選の動きも、党本部は既成事実として認めざるを得なかったという側面が強い。


政治は生き物だ。今回このコメントを書くにあたり、当時の日経新聞を読み返しながら、つくづくそう感じた。日々新たな影響、新たな要素を持った記事が、ポロッと紙面に掲載される。ほんの一行、ほんの一フレーズであっても、その意味するところ大なる文章が紙面に紛れている。過去の新聞記事を読むことは、今日の新聞を読むことと同じくらい重要なことであるかもしれない、と感じた。
16日の日経新聞朝刊1/2面が、15日投開票が行なわれた秋田県知事選で、無所属で現職の寺田典城氏(60)が、自公保推薦の無所属村岡兼幸氏(村岡兼造自民党総務会長の長男)を破り再選を果たしたことを報じた。
自民、公明、保守の与党3党の推薦候補が敗れたことは、強固な地盤を持つとされてきた地方でも自民党の求心力が低下している実態を鮮明にした。支持団体を中心とする従来の選挙手法の効果が表れなかったことは、7月の参院選や党総裁選にも影響を与えそうだ。

17日の日経新聞朝刊2面は、『(総裁候補の一人)小泉純一郎氏が16日までに、総裁選で当選して首相になった場合、靖国神社を公式参拝する意向を日本遺族会など党支持団体に伝えた』との記事を報じた。
これに対し翌18日の日経新聞朝刊2面は、『自民党総裁選の候補者が靖国神社への参拝に前向きな発言をしていることに中国、韓国では反発が広がっている』と伝えた。小泉純一郎氏は17日夜、都内で記者団に『「国に自らの命を捧げた方々の犠牲の上に今日の日本がある。どの国でもそういう人に敬意と感謝の誠をささげるのは当然だ」と述べ、首相に就任したら靖国神社を公式参拝する意向を重ねて表明した』と報じた。

19日の日経新聞朝刊2面は、党員の約7割を占める職域団体を掌握する橋本派が、地方票で予想外に苦戦している実態に焦点を当てていた。
自民党の主な職域団体と党員数
    団体名             2000年党員数      (%)

 大樹(特定郵便局)          239,651      (10.1) 
 建設                   182,526      (7.7)
 軍人恩給連盟             154,592      (6.5)
 看護連盟                124,056      (5.2)
 医療会                  115,189      (4.8)
 遺族会                  110,277      (4.6)
 土地改良                 93,488     
 宅建                    92,483    
 ときわ会(JR)              79,287
 その他の団体              238、776 

     計               1,430,325     (60.4) 
 その他の党員              938,927     (39.6) 
 -----------------------------------------------------
    全党員             2,369,252     (100.0)
同記事は、橋本派の地方での劣勢の要因をこう述べている。
特定郵便局長会のように橋本派が強い団体であっても、党員は47都道府県に散らばっているため、圧倒的に強い地域がつくれない。しかも今回は予備選で一位の候補が3票を総取りする方式を採用する県連が多く、接線に持ち込んでも負ければ結果として票はゼロとなってしまう。
しかも本部からの「橋本氏支持」が地方に徹底していない、との不満も続出。「日本遺族会の支持が行き届いていない」「建設団体の動向が不明だ。亀井氏が食い込んでいる」などの報告が多かった。野中氏は「特定郵便局長会でも歩留まりはよくない。奥さんは小泉支持だというところもある」と、引き締めにゲキを飛ばした。


20日の日経新聞朝刊3面に、橋本、小泉両氏の総裁選への期待の票読みを読んだ記事が載っていた。

                               橋本氏の読み        小泉氏の読み

国会議員票   橋本派       101        101
          堀内派        44         44
          江藤・亀井派    55         55(期待)         55(期待)
          森派         60                          60
          山崎派        23                          23
          加藤派        15                          15
          旧河本派      13         (13)              ?
          河野派        12         (12)
          その他        24                         4+?
           計         346         200            157+?

地方票                 141         60(努力)          90+?
      
          合計        487        260           247+?           
        (過半数)       (244)

橋本派は現在、予備選で橋本氏が優位に戦いを進めているのは10府県程度と分析。同派幹部は「最低で20ヵ所、60票の確保」を目標に掲げる。予備選で小泉氏に大差をつけられると、国会議員の投票に影響を与えかねないからだ。
一方、小泉氏が予備選で「ダブルスコア」の圧勝となるかどうかが分岐点、との見方が党内で増えている。地方票で小泉氏が圧勝した場合、24日の両院議員総会での国会議員の投票に影響を与える可能性が大きい。各議員が「地元の意向」に反して小泉氏以外の候補に投票するのは、その後の選挙活動などへの影響を考慮すれば、かなりの心理的負担となるためだ。
』と記事は解説している。


4月23日に開票を終えた地方の予備選で、小泉純一郎氏は47都道府県連のうち41都道府県を制し、123票を獲得して圧勝した。24日の日経新聞朝刊1/5面が伝える予備選の結果は次のとおり。

             小泉純一郎     橋本龍太郎      亀井静香      麻生太郎        計     

獲得票数         123票        15票          3票         0票        141票   
同都道府県連数*     41           5            1          0          47    
得票数**        793,130     413,278      87,030      73,601    1,370,906
得票率          57.9%      30.1%        6.3%        5.4%              
   (注*) 大阪は得票に応じて、1位小泉に2票、2位橋本に1票、鳥取は1位橋本に2票、2位小泉に1票を配分。
        それ以外はすべて1位の3票総取り方式となっている。
   (注**)広島、山口は、支部長・県議らの投票のため除外。無効票があるため得票合計と得票数は一致しない。 

日経新聞23日の朝刊39面、24日の朝刊3/39面が、党員、県連役員の声を伝えている。

【都内で板金工場を営む男性(54)】会社では経費を切りつめて黒字を出し、税金を納めているのに、景気はいっこうによくならない。派閥の拘束が議員の良いところをつぶしている。密室の派閥政治は終わりにして、自民党に変わってほしい。
【神奈川県の卸売業の男性(63)】派閥の力関係ではなく、党員の手で総裁を選ぶというのは当然のこと。みんなが感じていた自民党の密室政治に対する不満が今回、爆発しているのでは。

【大阪府議団の森山一正幹事長】国民の声がそのまま(党員の)投票行動に反映された結果だ。橋本派の締め付けも一般党員までは浸透しなかった。
【神奈川県連の浮島敏男事務局長】大胆な改革を実行しようという(小泉氏の)姿勢への支持が集まった。中央の数合わせで誕生する総裁はいらない。
【東京都議会自民党の山崎孝明政調会長】派閥選挙はノーだという党員・党友の意思が率直に表れた。永田町の論理に一般党民はもううんざりしている。
【岡山県連の原寿男幹事長】マスコミ報道やKSD事件などの要素が絡み合い、小泉氏を除く他の三候補は党批判の厳しい風当たりを受けてしまった。
【千葉県連の飯島重雄幹事長】予想以上の差だ。末端の職域支部に締め付けが行き渡らなかった。
【宮城県連の土井亨幹事長】業界のためだけに政治があるのではないことを職域の皆さんも優先したのではないか。
【富山県連の向井英二幹事長】従来の党本部主導、派閥中心の論理に、地方がアレルギーを起こした。
【秋田県連の藤原俊久幹事長】住民はリストラなどに不満を持ち、それが規制の組織や集団への批判につながった。

今回の総裁選においては、中曽根康弘元首相の影がチラチラすることが多い。24日の日経新聞朝刊2面に、この総裁選の裏の経緯をしっかり解説している記事が掲載されていた。
3月1日、中曽根元首相は「次は予備選をやるべきだ。私の権限が強かったのは予備選をやったからだ」と語った』という。
予備選ーー。それは開かれた総裁選を演出しようとした古賀幹事長ら「生みの親」の予想をはるかに越える「怪物」となって、当事者たちの思惑を吹き飛ばした。「いまの1票に青年部と女性部の代表を加えて合わせて3票でいいんじゃないか」。3月10日、森首相が党五役に「総裁選の前倒し実施」という事実上の退陣表明を伝えた直後、古賀氏は堀内派議員との会合で漏らした。同じころ、古賀氏が後見役に仰ぐ橋本派の野中広務氏も、県連票は3票程度になるとの見通しを示している。気脈を通じた古賀氏と野中氏が、落としどころとして検討したのが「3票案」だった。
合計で141票というウェートは、国会議員票の約4割。小泉氏が出馬しても、橋本派と堀内派が組めば国会議員票で圧倒できる。しかも地方票は橋本派が強い支持団体の締め付けも可能。地方の代議員も、国会議員と同じ投票行動になるーー。どう転んでも橋本派と堀内派の負けはない、との計算だった。
ところが3月12日の全国幹事長会議。あらかじめ打ち合わせた県連幹事長たちは「党員一人1票に換算してほしい」と訴えた。古賀氏は「党員・党友の1票と、国会議員の票を同じにすることは、私がこの場にいる限りダメだ」と切り捨てた。「これほどまでに地方の声を聞かないとは。我われは独自の予備選をやる」。東京都連の幹事長は会議後、憤然として述べた。県連に与えられた枠の投票行動は、自分たちが勝手に選挙をやって決めるという趣旨だ。この都連の活動は瞬く間に全国に広がった。3月16日熊本、17日神奈川・・・。それでも橋本派と堀内派に危機感はなかった。予備選よりも、どうしてもつぶしたい動きが面前にあったためだ。小泉氏擁立派が主張した「300小選挙区ごとに党員票を1票与える」案である。
4月4日、執行部はこの「一部のはね上がり」の案を完全に葬り、県連票は各3票とすることを決めた。「これで小泉は出ても勝てない」小泉氏支持の山崎拓氏もうめいた。
が、予備選は橋本・堀内派、小泉氏支持派の双方の思惑を超えて動いた。大半の県連が1位候補に3票すべてを与える「総取り方式」を採用した効果も予知できなかった。


4月24日、自民党は党本部で両院議員総会を開き、小泉純一郎氏を第20代総裁に選出した。
投票結果は、小泉純一郎氏、298票。橋本龍太郎氏、155票。麻生太郎氏、31票。無効票3票の投票総数487票であった。
そして最後の、最大の疑問が残る。彼らは、なぜ「小泉純一郎」を選んだのであろうか?
24日の日経新聞朝刊3面には、『どうしようもない大きな流れがあった。組織が崩れたこともあるが、それよりも世の中の空気だ』と予備選での大敗を総括する橋本派幹部の言葉が載っていた。ここまで追ってきた総裁選の流れを振り返っても、地方組織から湧き出る政治の現状に対するマグマのような憤懣がひしひしと感じられる。それほどのマグマが、一体どこから湧き出てくるのか?
16日の日経新聞朝刊2面の”風見鶏”に、宮本明彦編集委員がこう書いている。『予備選といっても、投票は党員に限られるし、しかも党員の大半は支持団体ごとに組織されている。本来、党員票が一般世論を代弁するものでないのは明らかだ。自らが党費を払う個人党員は限られているし「幽霊党員」の存在も指摘されている。』その党員が、一般選挙で投票する国民と同じ視点で投票するかといえば、これは疑問である。上述の宮本編集委員はこう指摘する。『橋本派が圧倒的影響力を持つと言われた郵政、建設をはじめ主要支持団体の側にすれば、派閥の締め付けに従うより、夏の参院選で少しでも有利になる総裁を選んだ方がいい。』24日の日経新聞朝刊3面はまたこのように報じている。『このままでは3カ月後の参院選に敗北するとの危機感が、地方票の潮流変化を後押しした面も見逃せない。福岡県連の内田壮平総務会長は、「参院選に勝てないまでも、負けがひどくならないのは小泉さんしかいない」と語り、東京都連の石川要三会長も、「解党的出直しに通じ、(参院選に向けて)党にとって大きなプラスになった」と語る。』同日2面の社説の中にも、『旧態依然とした派閥政治の横行に、自民党の若手議員や地方組織は「とても7月の参院選は戦えない」と強い危機感を抱いていた』との表現が見られる。

19日の日経新聞朝刊2面に小さく掲載された、自民党総裁選で予備選を実施する各都道府県連の幹事長を対象にした同社調査を取り上げたい。『今回の総裁選で重視する点として「開かれた総裁選」参院選に勝てる総裁選びを挙げた幹事長が最も多く、参院選をにらんで党改革への期待から小泉純一郎氏を支持する声が広がっている実情が浮き彫りになった。ただ小泉氏の政策面の主張が率直に受け入れられているとは言い難い。重点を置くべき政策で圧倒的に多かったのが橋本龍太郎、亀井静香、麻生太郎の三氏が主張する「景気回復策」。小泉氏の「財政構造改革」「銀行の不良債権処理などによる経済構造改革」を重視するとした回答は、それぞれ「景気対策」重視派の四分の一にとどまった。

ズバリ言おう。「橋本龍太郎氏では参院選はとても勝てない」。これが、党員・党友の共通した考えであり、地方組織の幹部の一致した印象だった。逆に小泉純一郎氏は、世論調査などでの高い人気を背景に、「参院選に勝てる党の顔」としての期待が強く、全国的にまんべんなく支持を拡大していった。
もともと自民党政治が世論の糾弾を浴びた理由は、森政権誕生の「五人組による密室談合」と、「神の国」発言に始まった森政権の数々の失言とスキャンダルによるものであった。後半の半年間、その内閣支持率が10%を上回ることのなかった不人気森政権に業を煮やしたのが地方組織と若手議員であった。彼らの憤懣を利用して3月13日の自民党党大会を前に、森首相に退陣を迫ったのが野中氏を中心とする橋本派であったわけであるが、この森首相が、自分の退陣と引き換えに、自派の後継総裁候補である小泉純一郎森派会長に有利となるよう総裁選実施方法を誘導していったところに、最大派閥でありながら橋本派にとってますます先の読めない総裁選となってしまった要因があった。森首相がどうしようもなく不人気であったことが、同派の小泉候補にさらに有利に働くという、常識では測れないジレンマの中に橋本派はもがいていたと言えよう。
小泉純一郎氏は、自民党が「参院選を勝てる顔」として、自民党員の手によって首相に選ばれたのである。
この時点においては、決して日本国民が、日本を良くしようと思って小泉純一郎氏を首相に選んだわけではなかったことを強調しておきたい。


7月31日の日経新聞朝刊2面が、『自民党は参院選勝利を受け、30日の党役員会で9月実施予定の総裁選について協議し、小泉純一郎首相(党総裁)以外に申し出がなければ8月10日に党大会に代わる両院議員総会を開き、再選を決めるーーことを決めた。総裁任期は現行の党規約に基づき10月1日から2003年9月までの2年間とし、党内で検討中の総裁公選規程改正に関しては党政治制度改革本部で作業を進め、年内に結論を出すことで一致した』と報道した。


12月20日の日経新聞朝刊2面が、自民党総裁公選規程改正について、次の記事を報道した。
自民党は19日の政治制度改革本部(原田昇左右本部長)の総会で、新たな総裁公選規程を決定した。週内に総務会で正式に決定し、1月の党大会で改正する。規程の改正を巡っては、橋本派を中心に手続き・内容の両面で執行部の対応を批判する声が噴出し、総会のたびに紛糾。結果的に橋本派議員らの主張を大幅に取り入れた。
内容は次のとおり。

@総裁任期は1年延ばして3年とする。
A立候補に必要な国会議員の推薦人要件を、30人から20人に緩和する。
B党所属の国会議員に各都道府県連の代表者1人を加えた数の二分の一の求めがあれば、臨時の総裁選を行なうとの、事実上の「リコール規程」を設ける。
C地方票の総数を300票とし、まず各都道府県に3票の基礎票を与えたうえで、残りの159票を党員数に応じて比例配分して「持ち票」を決定する。党員投票の集計は、都道府県ごとに行なう。
D地方票に国会議員の票を加えて、当選者を決める。(現行通り)
E総裁選への参加資格は、2年連続で党員である人に限る。(現行通り)

焦点の地方票300票の配分は、当初執行部は各都道府県で過半数を獲得する候補者がいれば、その都道府県の票を総取りし、いなければドント式で配分する案をまとめ、全国幹事長会議で了承をとりつけた。しかし、橋本派の鈴木宗雄氏らが改革本部総会での合意がないまま幹事長会議に諮ったことを「手続き上問題がある」と厳しく批判。内容についても「死に票が多く出る」と猛反対した。

11月15日の日経新聞朝刊2面に、次のような記事が載った。
小泉純一郎首相は14日夜、都内のホテルで自民党支持の各種団体の代表者と懇談し、来年の政治日程について「衆院選も参院選も統一地方選もない。これだけ選挙のない年は珍しいので思い切って改革をやりたい」と述べ、党内の反対を振り切って改革実現に全力投球する意向を明らかにした。同時に「自民党員が減っている。私を助けると思って継続党員を集めてほしい」と要望した。会合には日本医師会、全国建設業協会など42団体の代表者が出席し、山崎拓幹事長、青木幹雄参院幹事長ら党幹部も同席した。全国の特定郵便局長OBらで構成する「大樹」のメンバーは欠席した。

思い切って改革をやるとな。いったい日本はどうなってしまうんだ!
自公保の連立与党は、小泉首相が解散権を行使しない限り、次回の衆院総選挙が予定される2004年6月まで、衆議院で過半数を維持できる。同様に、次回の参院選挙が予定される2004年7月までは、参議院で過半数を維持できる。
自民党の次回の総裁選は、2003年9月である。
小泉首相は、自分が森喜朗前首相から学んだことの一つは、いったん首相になると、相当ひどいことがない限り、辞めさせられないことだ、と語ったことがある。小泉首相は、内閣を改造する気もなければ、解散権を行使する気もない。その経済音痴をひた隠すためにひたすら中途半端な構造改革の旗を振り回し、日本経済を破綻の道へ追い込もうとしている。日本国民は、このまま2003年9月の自民党総裁選まで、この口のうまい男の「改革」と称する日本経済の破壊行為を、指をくわえて見ていなければならないのであろうか?2003年6月までに、ムーディーズによる日本国債の一段の引き下げがあるであろう。その頃には、国の財政赤字の補填のために、増税ラッシュが起きるであろう。一般の国民の生活水準は、年々劣化していくに違いない。あるいは、歴史が証明しているが如く、経済が最悪になったときには、戦争をおっ始めるかもしれない、北朝鮮あたりと。
この口のうまい男を、なんとか首相から引き摺り降ろすことはできないものか?

今般、自民党総裁公選規程の改正の中に、総裁の「リコール規程」とも言うべき内容が盛り込まれた。
党所属の国会議員に各都道府県連の代表者1人を加えた数の二分の一の求めがあれば、臨時の総裁選を行なうことができる」というものである。自民党橋本・堀内派にとってみれば、この程度の員数をそろえることは、それほど困難なことではなかろう。しかし問題は、その後だ。またまた予備選を実施することになる。橋本・堀内派に、勝てるメドはあるであろうか?いや、それ以前に、橋本龍太郎氏以外に総裁候補がいるのであろうか?橋本派にしても、簡単に仕掛けられる状況ではない。
先の4月の予備選における小泉首相の勝因は、自民党の党員・党友の小泉首相の「改革」に対する期待であった。自民党の勝利のため、自民党党員・党友の権益を守るために、小泉首相に澱んだ自民党を「改革」してもらいたかった。いまのこの経済状況下においても、未だ内閣支持率が80%を上回るというのであるから、おそらく自民党党員・党友の小泉首相に対する期待も剥げ落ちてないものと思われる。そうであれば、橋本・堀内派がいくら仕掛けようが、たとえ地方票の配分がドント式になろうが、またまた予備選で跳ね返されてしまうことが十分予想される。当然彼らもそれは分かっている。だから、彼らは待つであろう。自民党の党員・党友の小泉首相に対する「改革」の期待がすっかり剥げ落ちるのを。

それはまず、内閣支持率に表れてくるに違いない。内閣支持率が、十分下がってきたとき、自民党の党員・党友の小泉首相に対する期待も剥げ落ちてきたと言えるであろう。それまでどのくらいの時間がかかるかわからない。もっともっと経済がダメッジを蒙り、我われの生活が悲惨さを増してこないと、内閣支持利率も下がってこないかもしれない。橋本派は、じっくりそれを待つだろう。政治家や官僚・国家公務員の生活は、大して収入が下がるわけでもなく、リストラや倒産があるわけでもないのだから。
(2001/12/30)

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