the NIKKEI-watcher

Taka watches


「経済音痴の経済政策を問う」


DATE・・・・2001/11/26(M-1)
記者 ・・・・論説副主幹 岡部直明
TITLE ・・・”浮沈の岐路/経済政策を問う(1)”/総合戦略、首相の責務
評価 ・・・・B



経済について書くのは久し振りである。9月9日のTaka watches/「IT不況はITで断つ」以来であるから、約3カ月振りだ。この間、9月11日の米同時テロ事件もあり、景気は悪くなる一方であった。株価も9月17日には終値で9504円をつけ、1万円大台割れを現出した。
それと共に、小泉政権の経済政策と、それに対するマスメディアの論調はどのように変化したであろうか?あるいは変化しなかったであろうか?11月26日日経新聞は、浮沈の岐路に立つ日本経済に焦点をあてた新企画をスタートさせた。第一日目は、岡部直明論説副主幹の解説する「経済政策を問う(1)]であった。

記事は次の文章から始まった。
『日本経済は戦後の先進国が経験したことのないデフレスパイラル(物価下落と景気後退の悪循環)の危機にある。』
私も同感である。誰も意義のなさそうな無難なスタートの言葉といえよう。ところが実は、既にそこから「小泉政権」と岡部記者のミスマッチが始まっているというから、文章を書くことは恐ろしい。

小泉政権の経済閣僚の一人である竹中平蔵経済財政担当相は、『日本はデフレスパイラルの入り口にある』と見立てている。
これに対して岡部記者は、『それどころではない。1998年度以来、名目成長率はマイナスを続けている。今年度、来年度のマイナス幅は2%を上回るだろう。5年連続のマイナスの名目成長率は大恐慌時代でも経験していない』と言う。両者の認識は、全然かみ合っていない。

『(景気は)悪いことは悪いが、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)はいい』こう塩川清十郎財務相は語る。
しかし『そのファンダメンタルズが傷んできた。貿易黒字が縮小、産業空洞化が忍び寄る』と岡部記者は反論し、『日本の銀行システムは壊れ、高齢化が急速に進んでいる』という米国のエコノミスト、エドワード・ヤルデニ氏の警告および『日本は衰退過程に入った』という福川伸次元通産次官の声を引用している。これでも日本の景気の現状に対する、政府認識と岡部記者の認識は合致していると言えるのであろうか?

端的に言えば、岡部記者は本文を『日本経済は戦後の先進国が経験したことのないデフレスパイラルの危機にある』という刺激的名文章から書き始めているが、ここで読者には、政府自身はまったくそう考えていないということを頭に入れてこの記事を読み進む必要がある、と提起しておかねばならない。

政府がそう認識していないということは、岡部記者が言っている『この冷厳な現実を直視するしかない』とか、『こうした事態を放置すれば、日本発の世界恐慌を引き起こしかねない。泥沼から脱出するため経済政策を総動員するしかない』という記者の切実な語りも、ミスマッチに終わる可能性が強いということである。
手前味噌となってしまうが、私は正直、日本のマスメディアと読者との間には「通訳(者)」が必要であると、心の底から感じている。

政府の認識はともかくとして、岡部記者は『米同時テロ後の世界経済は、グリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長による危機管理優先の金融緩和でかろうじて「危うい均衡」を保っている。米景気後退はアジアを直撃、欧州に波及して世界同時不況に足を踏み入れるだろう』という認識のもと、浮沈の岐路に立つ日本経済の再生に向けて、『泥沼から脱出するには不良債権処理、構造改革、財政・金融政策、税制などを組み合わせる総合戦略が必要になる』と提言している。

まずは『不良債権処理が優先課題』であるという。
『デフレと不良債権問題は悪循環に陥っている。金融庁の特別検査を受け銀行は資産査定を厳格化、引き当ての強化や直接償却を急ぐべきだ。それで資本不足に陥るなら経営責任の明確化を前提に公的資金の注入をためらうべきではない。銀行国有化も視野に入れるしかない』と岡部記者は提言する。これを箇条書きすると、
@金融庁の特別検査を受ける。
A資産査定を厳格化する。
B引き当ての強化や直接償却を急ぐ。
C経営責任の明確化を前提に、公的資金の注入をためらうべきでない。
D銀行国有化も視野に入れるべきだ。
と、こうなる。

@に関しては、柳沢伯夫金融担当相は『金融庁には能力がない』と嘆いているそうだ。金融庁(その前の大蔵省)および日銀は、過去に何度も銀行検査を実施している。彼らは既に実態を掴んでいるはずだ。(なにせ彼らは優秀な官僚なのだ。)その実態があまりにも桁外れなので、それをどう処理していいかわからないという意味において、『金融庁は能力を欠く』と柳沢金融担当相は言いたいのであろう。
金融庁の特別検査が、銀行の不良債権処理の前倒しを促す、というメリットももちろんある。その銀行の処理方法に関する部分が、AとBである。

しかし「資産査定の厳格化」「引き当ての強化」「直接償却」どれをとっても、今更という気がするのは、私だけとは思えない。
CDについては、言わずもがなと言える。なぜ「経営責任の明確化」ができない?「経営責任の明確化」もできないで、責任ある「教育改革」ができるか?子供達に何と教えるつもりか?銀行が資本不足に陥れば、政府がためらおうがためらうまいが、市場原理が働いて公的資金を注入せざるを得なくなるのは明白だ。「銀行国有化」にしても同様に、必要とあらば市場原理が働き、政府が市場から催促される形で行われることになるであろう。

上記すべてが5年10年前でも通用する言葉だ。岡部記者はこういう。『断固として不良債権問題に取り組み金融システム危機を防がねばならない。』先に述べたように、政府自身の経済状況・景気に対するの認識が甘いのであるから、いくら記者が力んでみても、今回も望み薄と考えておいた方がよいであろう。十年一日こう言わせる政府も政府だが、十年一日同じことをよく飽きもせず書くほうも書くほうである。ただ岡部記者の次の文は、別の意味で面白かった。
『不良銀行、不良企業の退場は避けられない新陳代謝なのだ。』
この文を読んだ瞬間、私には次の文が思い浮かんだ。”不良政治家の退場は避けられない新陳代謝なのだ。”そうあってほしいものである。

次に岡部記者は、『小泉改革の柱である特殊法人改革や規制緩和は民間企業の活力を生む。住宅金融公庫の廃止や郵便貯金の民営化などは民間金融機関が挑戦意欲を持ちさえすれば、大きなビジネスチャンスをもたらすはずだ』と述べる。住宅金融公庫の廃止や郵便貯金の民営化は、今後の課題である。その結果が現れてくるのは、まだまだ先のことである。いまは『日本発の世界恐慌を引き起こしてはいけない』という視点から、岡部記者は本文で提言を行っているはずである。これから具体的にどうなるかもはっきりしていない「住宅金融公庫の廃止」や「郵便貯金の民営化」に目を向けて本筋から目を逸らせてしまったら、小泉政権の思う壺にはまってしまう。

以下が、岡部記者のもっとも強調したい部分である。
『デフレスパイラルは需要不足が要因だ。供給サイド中心の小泉改革だけでは危機から抜け出せない。』
そして彼は、『一方で政府のやるべきことは政府がやるしかない。(小泉)改革を支えるためにも三つの需要対策をかみ合わせる「小泉改革プラス3」が必要である』と、次の3点の提言をしている。

第一は財政の役割だ。
岡部記者の意見は次のとおりである。『債務が債務を呼ぶ「債務の罠」にあるなかで、財政規律は大事だ。野放図な国債依存は「JGB(日本国債)プロブレム」を深刻にし長期金利上昇を招くから、従来型公共事業に逆戻りする愚を犯してはならない。一方でデフレで税収が落ち込むなかで国債30兆円という数字合わせにこだわり、政策の手足を縛るのも問題である。都市再生や大規模研究開発など将来に生きる効率的な予算配分は可能だ。』

政治家は、言葉を操る魔術師のようなところがある。マスメディアは、それに輪をかけて人を惹きつける見栄えのする”キャッチフレーズ”が大好きだ。「都市再生」などまさにその類の代表的言葉である。「都市再生」といわれると、バラ色のイメージがフワッと浮かんでくる。しかし具体的に何があるのだろう?もし何かがあれば、もう既にやっていないであろうか?「財政の役割」と言いつつ、その中で岡部記者が言っていることは、
@従来型公共事業に逆戻りする愚を犯してはならない。
A国債30兆円という数字合わせにこだわり、政策の手足を縛るのも問題である。
それだけである。こんなことは、経済音痴の小泉首相にでも言うことができる。第一の提言は、中身がお粗末だ。

第二は経済活性化への税制の貢献だ。
岡部記者の意見は次のとおり。『企業の事業再構築に欠かせない連結納税制度を先送りするのは改革に逆行する。住宅金融公庫の廃止に伴う住宅ローン減税や投資減税など経済活性化のメニューはある。目先の数字合わせをあせるより、税収基盤を強化することが財政改革への近道だ。』

これもよくわからない話だ。住宅金融公庫廃止に名を借りなくとも、住宅ローン減税はいつでも可能なはずだ。政府はなぜやらない。投資減税にしても然りである。連結納税制度の先送りにしても、同じ理由だ。財務省が気にしているのは、目先の税収減である。そして岡部記者が提言しているのは、目先の数字合わせをあせるより、税収基盤を強化することが「財政改革」への近道だと言っている。財務省が目先の税収減にこだわるのは、小泉首相の公約「国債30兆円」があるからである。もし税収減があれば、どこか他から源資を調達せねばならない。岡部記者が言っている『税収基盤を強化することが財政改革への近道だ』ということは、正論である。しかし岡部記者は、自分の内に矛盾を抱え込んではならない。目先の税収減にこだわらず、税収基盤を強化するような道をとることは、「小泉改革」とまったく反する方向である。小泉首相が叫んでいるのは、「国債新規発行30兆円(以下)」「2〜3年のデフレによる国民の痛みは覚悟」である。彼はたとえ税収基盤が崩れようが、「国債30兆円」にこだわると言い、そのために財務官僚が目先の税収減は受け入れられないと主張しているのである。
岡部記者が真に『目先の数字合わせをあせるより、税収基盤を強化することが財政改革への近道だ』と考えるのであれば、小泉首相の「国債30兆円枠死守」(塩川財務相は以前、これは小泉改革の生命線だと言っていた)、「2〜3年のデフレによる国民の痛みは覚悟」などなどの発言を見過ごしてはならない。その発言を見過ごしておいて、税収基盤を強化することが財政改革への近道だなどと言うのは”自己矛盾”ですよ、と私は言っているのである。今般も「医療制度改革」において、小泉首相ただ一人異常なまでに「患者負担3割への引き上げ」に固執した。この男はよほど国民に「痛み」を味あわせたいらしい。患者負担引き上げは、増税と類義語である。増税で事を済ませようとは、この男は何を考えているのか?岡部記者はこれに関して、小泉首相に何か苦言を呈していただいたであろうか?

第三は金融政策の責任である。
岡部記者の意見。『「流動性のわな」の中にある金融政策だが、財政・税制が役割を担うなら量的緩和の強化で責任を果たしていい。もはや責任転嫁し合っている場合ではない。政府、日銀は結束し、名目成長率を重視してデフレスパイラル脱出への総合戦略を打ち出すべきだ。』

短い文章であるが、いろいろ興味深い内容が詰まっている。
@『財政・税制が役割を担うなら量的緩和の強化で責任を果たしていい。』これはどういう意味だ?「日銀が」量的緩和を強化して責任を果たしていい、という意味か?『果たしていい』とは何だ?財政・税制が役割を担わなければ、日銀は責任を果たさなくていいと、あなたは言うおつもりか?そんなバカな話はなかろう。政治家や官僚が、たとえやるべきことをやらなかったにせよ、「日銀」は、自らに付託されたジョブを精一杯やり抜くことが世間の常識というものだ。速水日銀総裁はこの世間の常識に欠けるから、皆から非難されているのである。
A『もはや責任転嫁し合っている場合ではない。』政府・日銀が、互いに責任転嫁し合っていることを認めているようである。私もそう思う。しかし、@で述べたように、私は、自らのジョブを果たさない速水優日銀総裁の側に、一義的により責任があると考えている。小泉首相ばりの「二方一両損」で、この問題を考えていただきたくない。
B『名目成長率を重視してデフレスパイラル脱出への総合戦略を打ち出すべきだ。』ここには何ら「どのようにして」という肝心の提言がない。お題目だけであれば、経済音痴の小泉首相でも唱えられる。

岡部記者は、次の文章で本文をまとめている。
『その総合戦略の先頭に立つのは、小泉首相自身である。このみぞうの経済危機を乗り越えれば、将来展望も切り開ける。逆に危機を打開できなければ、衰退への道が待っている。危機克服こそ米同時テロ後のグローバル経済における日本の責務である。首相のリーダーシップが今ほど求められているときはない。』

岡部記者の上記の文の中で、『危機克服こそ米同時テロ後のグローバル経済における日本の責務である』という言葉が印象に残る。彼は「日本の責務」という言葉を使っている。国際社会に対する「日本の責務」という意味であろう。しかし、現実はどうであったか?どさくさに紛れて憲法9条の新”迷”解釈を一席ぶったのはご愛嬌としてみても、「テロ発生」に名を借りて経済諸政策を先送りしたのが、小泉政権の現実ではなかったか?小泉首相の「テロ対策」は、国際社会に生きる日本の責務としての「対策」ではなく、自民党を喜ばせるための「対策」であったような気がする。私は、「小泉改革」なるものの正体は、国民のための「構造改革」ではなく、自民党のための「改革」であるという気がしてしようがないが、両者の間に一脈相通ずるものがありそうだ。

話を戻して、岡部記者は、小泉首相のリーダーシップにたいへん期待されているようだが、本文の始めに述べたように、残念ながら岡部記者と「小泉政権」の間には、日本経済の現況に対する認識のズレというミスマッチが起こってしまっている。
約3カ月振りに書いた経済に関するコメントであったが、記者の記事の内容が5〜10年前でも通用するようなものであるから、3カ月間のブランクも、新鮮なサプライズも何も感じることはなかった。感じたことといえば、この国はいつでも同じことを言っているという、失望感であろうか。
(2001/11/30)

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