the NIKKEI-watcher


Japan Problem/日本の財政赤字


十字路



「十字路」。なぜか心に残る言葉である。何も考えずに真っ直ぐ進むだけでいい一直線の路と対比するとき、「十字路」の持つ不思議な響きの意味が、なんとなくわかる気もする。
「十字路」は、選択の場所である。自らの進路を変えるチャンスの場でもある。
日本はいま「十字路」に差しかかろうとしているのであろうか?それとも財政破綻、金融崩壊へとつながる一直線の路を進んでいるのであろうか?

日経新聞夕刊マーケット総合面のコラム「十字路」には、様々な人が実名で時流の問題についてコメントを披露する。
2002年最初の「十字路」となった1月4日の夕刊6面には、医療用機器の製造販売を手掛ける優良会社、テルモ(株)経営企画室副室長の新宅祐太郎氏が登場した。
私は従来より、「十字路」に定期的に掲載される同氏のコメントに、たいへん関心を持ってきた。深い経済専門知識に裏付けされ、偏向なくものごとを真正面に見据えてコメントする新宅氏の変わらぬ姿勢に、常づね心で賞賛の拍手を送ってきた者である。
2002年初の「十字路」となった当記事は、私のみならず、同コラムに興味を寄せる多数の読者に、驚愕の衝撃を与えるのに十分な内容であった。

DATE・・・・2002/01/04(E-6)
作者 ・・・・テルモ経営企画室副室長 新宅祐太郎
TITLE ・・・”十字路”/1000兆円破たんと生存戦略

新宅氏は、日本は一直線の路を進んでいるとみる。この先にもう「十字路」はない。日本は、墜落寸前の飛行機であるという。
日本の運命を決めるのは、国・地方の債務7百兆円に特殊法人の債務3百兆円を加えた千兆円の重圧』であるという。『懸念される国家的金融危機が到来したとき、それは津波が入り江の奥で巨大化するように千兆円は更に膨張し、政府に向かって一挙に押し寄せる。その爆発的エネルギーをしのぐ余力は、今の日本には残っていない』と同氏は明言する。

そして新宅氏は、現役のサラリーマンの立場から、こうした大混乱を生き抜くために民間企業の取るべき自衛策として、資産の国際分散の必要性を強調する。『日本企業だからという感傷にとらわれていると、財政破綻と運命をともにすることになる』と警告し、考慮すべきこととして、次の二つをあげる。

@<グローバルな流動性の確保
非常時には何らかの資本規制が行なわれ、当然海外への送金は滞る。
A<海外での購買力の保全
大混乱の後に残るのは、貨幣価値の倒壊である。日本企業の海外での購買力は劇的に低下し、グローバル競争に復帰する道が閉ざされてしまう。

ここから読者が驚愕するエンディングの文章が始まる。
構造改革や景気対策は、墜落寸前の飛行機の乗客が、故障の原因を詮索するのに似ている。乗客がなすべきことは、少しでも生存の確率を上げることである。クッションを用意して衝撃に備える姿勢をとろう。

まだ小泉純一郎氏が首相になるメがほとんどなかった昨年の3月頃には、新宅氏はどのような意見を持っていたのであろうか?

DATE・・・・2001/03/16(E-9)
作者 ・・・・テルモ経営企画室副室長 新宅祐太郎
TITLE ・・・”十字路”/危機と向かい合う米国方式を


現在の日本の状況は、当時の米国よりもはるかに厳しい。にもかかわらず、景気対策を名目にした非効率的な公共投資をいつまでも続けられるという錯覚がある。国民も行政依存になれ切っており、過保護体質から脱却できていない。』まさに小泉政権が目指している、「投資の効率化」「構造改革」そのものではないか。
「当時の米国」とは、『クリントン政権と共和党主導の議会が歳出削減の方法をめぐって激しく対立し、政府機関の一部閉鎖と政府職員の一時帰休が起った1995年』を指している。同氏はこれについて、『(国債の利払いさえ滞るのではないかと危惧され)当時は、そこまでやる必要があるのかと思ったものだが、今考えると見習うべき点が多い』と言う。

一つは現実を直視して、納得するまで徹底して議論する姿勢である。これは日本には全く欠けている。さらに重要なのは、ワシントン中心の政策決定を改めることを重視し、多少の不便には動じない米国民の自立した政治意識である。

実はその後も、米国が危機と真正面から向き合い、約一カ月の間、固唾を飲んで見守りながらも、新宅氏が指摘した如く、動じない米国民の自立した政治意識をまざまざと世界に印象づけた出来事があった。一昨年の11月から12月にかけて共和党ブッシュ現大統領と民主党ゴア副大統領(当時)との間で戦われた、米国史に残る熾烈な大統領選挙のことである。
日本では、相当の教養を持ち相当の地位にある人ですら、「米国は何をバカなことをやっているんだ」という声が圧倒的に多かったように思う。しかし私は毎日、毎夜インターネットのCNNニュースを追いかけながら、アメリカという国の持つ粘り腰、その途方もなく奥深い民主主義の根っこに触れた思いに感激して、こう独言したことを思い出す。「これこそ民主主義なんだ!」

それはそれとして、新宅氏は『破局は制御不能である。破局を避ける唯一の方法は、制御可能な「発破」に小分けすることだ』と語り、『その意味で危機と向き合いながら決着をつけていく米国方式が今の日本には必要である。これから表面化する一連の危機こそ、解決の始まりである』と本文を結んだ。
「危機と向き合いながら決着をつけていく米国方式」に対峙するものとして、「先送り体質の日本方式」が思い浮かぶ。それはともかくとして、ここでは、「解決」の糸口を見出し、そこへの道筋をも示している新宅氏の「期待」が感じられるエンディングとなっている。

次に昨年11月後半に、同じく「十字路」に発表された同氏のコメントを見てみよう。

DATE・・・・2001/11/26(E-6)
作者 ・・・・テルモ経営企画室副室長 新宅祐太郎
TITLE ・・・”十字路”/忍び寄るリスクの深淵


新宅氏は、『(民間会社には)新年度に向けた事業計画策定の季節があり、製造業の場合、3年から5年先を視野に入れてリスクの洗い出しを行い、今後の戦略をたてる』と言う。そして今、『最大のリスクは、事業リスクよりも日本経済自体に内在するリスクである』と断言し、『既にその兆しは経済指標に表れている』と言う。

@<1998年をピークに減少を続ける貿易黒字の動向
2005年には、貿易収支が赤字化するという予測も出始めた。長期的には産業空洞化が進み、円安反転時の輸出増も期待できなくなる。多くの企業が海外生産を増やし、輸入ポジションを目指していることを考えれば当然である。
A<2005年を境に人口が減少に転ずる可能性
日本の分水嶺は以外に早くやってくる。
B<資金循環の静かな変化
最近は企業が投資を手控え債務を圧縮し、代わって政府が、家計部門の供給する資金を財政赤字の穴埋めのために吸収している。政府が必要とする資金を家計が供給する限り、問題は顕在化しない。だが昨年から家計の資金供給が細り始め、将来に暗雲が見え始めた。資金バランスが崩れ、国債価格の急落・長期金利の急騰が起れば、利払いを含めた政府の債務は爆発的に膨張する。

最後に同氏は、人間の性向について触れる。
情報が増加し選択肢が増えるに従って、人間は意思決定を留保し行動しなくなる傾向がある。すぐ近くまで忍び寄っているリスクの深淵を前にして、意思決定者の本当の力量が試されるときがきた。

新宅氏は、「乗客(日本国民)がなすべきことは、少しでも生存の確率を上げることである。クッションを用意して衝撃に備える姿勢をとろう」、こう今年初のコラム「十字路」で衝撃的な言葉を語った。昨年3月の「十字路」では、まだ「解決への期待」を示していた。11月の「十字路」においては、「すぐ近くまで忍び寄っているリスクの深淵」に対する「意思決定者」の力量を問い掛けた。「意思決定者」とは、現小泉政権のことであろう。11月後半から年末にかけては、特殊法人改革の自民党内玉虫色決着、ムーディーズによる日本国債の格下げ、医療費患者3割負担(変形増税)への固執など、「意思決定者」の力量を疑問視させる出来事が相次いだ。
昨年の3月、11月の段階では、日本経済の進路にはまだ「十字路」があった。しかし、いま日本経済はただ一直線の路をひた走っている。前途に「十字路」はない。小泉政権は墜落する飛行機を立て直せない、これが新宅氏の2002年年頭にあたって読者に送るメッセージであろう。
(2002/01/24)

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