
Japan Problem/日本はどこへ向かっているか?
やってから考える
「靖国公式参拝」
7月23日付日経新聞朝刊1面に、主要国首脳会議(ジェノバ・サミット)に出席した小泉純一郎首相が21日、宿舎の客船で同行記者団と懇談した模様が、ジェノバ発伊集院敦記者のレポートで報じられた。
その中の靖国神社参拝問題に関する記者団とのやり取りの記事の中に、”アレッ”と思う内容の箇所があった。
『靖国神社参拝問題では8月15日の参拝を取りやめる考えは一切ないことを強調、その後の対応については「参拝してからどういう改善方法があるかを考える」と述べた。反発を強めている中国や韓国との関係については「幅広く冷静に対処したい」と語った。』
この23日、東京株式市場では日経平均株価が大幅反落し、今年3月13日につけたバブル経済崩壊後の安値を下回り、1985年1月以来ほぼ16年ぶりに終値1万1609円をつけた。

翌々25日の日経新聞朝刊2面は、小泉首相が前日夜の日経新聞などとのインタヴューで、靖国神社参拝についての心境を次のように語ったと報じている。
『首相である小泉純一郎として参拝する。二度と戦争を起こしてはならないという気持ちから、戦没者に哀悼の誠をささげるつもりだ。日本国民、首相として当然の行為だ。』
同2面には、ベトナム訪問中の田中真紀子外相が24日、中国の唐家せん外相とハノイ市内のホテルで会談した記事が、ハノイ秋田浩之記者によって伝えられている。
唐外相は、『当面、中国が心配しているのは首相の靖国公式参拝だ。日本が実際の行動で現実に存在する諸問題を妥当に扱うよう切実に望む。もし首相が公式参拝すれば、中国民衆の強い反応が出るのは当然だ』と述べ、『正常化以来の友好の基礎が崩れることを心配している。二国間関係が正常な発展の軌道に戻ることが難しくなる』と、田中外相に参拝の見送りを強く求めたという。
『中国はこれまで、「歴史教科書問題」(
Japan Problem/日本はどこへ向かっているか?)で対日批判を強める韓国とは対照的に、靖国問題に懸念を表明しながらも比較的抑制した対応に努めてきたが、8月15日が近づく中で、中国側に「切羽詰まった空気が充満してきている」(日中関係筋)』という。
この田中、唐両外相会談は、その後に影響を及ぼすいくつかの副作用を生んだ。
一つは、会談は『中国側の申し出によりすべて日本語で行われた』のであったが、会談終了後、唐外相が『焦点の小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題を巡って、記者団に日本語で「(会談では)やめなさいと言明しました」と語気を強めた』という。
この唐家せん外相の「やめなさい」発言が、必ずしも自民党内に限らず、少なからぬ靖国参拝反対論者の中に「内政干渉」だという批難を巻き起こし、首相としての靖国公式参拝が持つ意味合いに関する議論と並行して、「内政干渉」か「近隣外交」かという論点が重なり合い、小泉首相の「靖国公式参拝問題」をますます捩れたものにしていくことになった。
二つめは、会談において小泉首相の靖国神社参拝に強い懸念を示す唐外相の発言に対し、実父田中角栄元首相が尽力した日中国交正常化とその後の日中関係改善の道筋を後退させたくないという心情の田中真紀子外相は、『「自分も心配している」と表明したうえで「中国側の考えはよく分かった。8月15日までにはまだ時間がある」として首相に再考を促す考えを示した』という。また会談後の記者会見では『「日本とアジアの近隣諸国の関係にかかわる重大な問題であり、慎重に対応する必要があると述べた」と語り、参拝に慎重論を唱えたと発表した』という。
この田中真紀子外相の発言が二方向に分かれて、「田中真紀子対外務省」という抗争を、「田中真紀子対首相官邸(小泉首相)」という政権を揺るがすレベルにまでエスカレートしていくこととなる。二方向とは、一つには、会談中に、彼女自身も小泉首相の靖国参拝に懸念を持っており、中国側の懸念を首相に伝え再考を促すと発言した点。一つには、会談後の記者会見で、『日本とアジアの近隣諸国の関係にかかわる重大な問題であり、慎重に対応する必要があると述べた』と語った点である。
この二点は、似てまさに非なるものがある。
7月26日付日経新聞朝刊2面が、唐家せん外相と会談した翌25日、田中外相が同じくハノイ市内のホテルで、今度は韓国の韓昇しゅ外交通商相と会談した模様を、再びハノイ秋田浩之記者が報じた。記事の中で、田中外相は次のように語った。
『(韓国)外交通商相の言いぶりは中国より軟らかいが、その分強い意志を感じた。帰ったら小泉首相と目と目を見て話をする。解決の知恵を出すのが外交の本質だ。』
田中外相が、中国の唐外相や韓国の韓外交通商相とサシの会談の中で、小泉首相の靖国参拝に対する相手国の強い懸念を感じ取り、小泉首相は参拝に行くといっているけれども、個人的には自分も懸念を持っているので、帰国したら是非あなた方のお国の強い懸念を、目と目を見ながら小泉首相に伝えて靖国参拝について再考を促しましょう、こう発言したことに関しては、日本の外相としてなんら落ち度はなかったと私は考える。
問題は、会談後に記者団に語った部分である。外相同士がサシで語り合ったと同じことを、公式に記者団相手に話してはまずい場合もある。田中外相が述べた『日本とアジアの近隣諸国の関係にかかわる重大な問題であり、慎重に対応する必要がある』という発言は、小泉首相が、自らの靖国参拝が「日本とアジアの近隣諸国の関係にかかわる重大な問題」とは考えていないという事実と、まったく相反するものである。一国の外相が、公式の場で記者団相手に、首相の考えと正反対のことを話しては、首相官邸がこれをもって外相に”その資質なし”と決めつけるのもあながち無理とも言えない。
しかしもう一方向の、田中外相が唐外相との会談中に語った部分、すなわち帰国して小泉首相に靖国参拝に対する中国の強い懸念を伝え再考を促す、との発言を捉えて田中外相の資質を云々する議論もあるようであるが、上述のように、私はその意見には組しない。25日付日経新聞夕刊2面が伝えた、民主党鳩山由紀夫代表が25日朝のTBSラジオ番組で、小泉純一郎首相が靖国神社への参拝に意欲を示していることに関して語ったコメントに分があるように思う。
『A級戦犯の合祀や政教分離の問題があるのではないかと言っても「私はそうは思わない」で終わってしまう。(参拝への意欲が)感情的なものだとすれば首相としての資質の問題だ。』
27日付日経新聞朝刊2面には、田中外相の帰国報告を待たずして、小泉純一郎首相が前日熊本市内での遊説で、靖国神社参拝に関し『「日本の首相として(戦争の)犠牲者の方々に敬意と感謝の誠をささげて、平和国家として世界の繁栄に尽くすという誓いを申し上げるのが、なんで批判されるのか分からない」と反発し、8月15日の終戦記念日に参拝する意向を改めて強調した。そのうえで「靖国神社を参拝することを日本国民の気持ちとして当然と受け止められていることを理解していただくよう、参拝してからいろいろな方々と相談して、中国と韓国にもご理解をお願いしたいと思っている」と述べた』との記事が報じられた。
同26日には、ハノイで田中真紀子外相が、小泉首相の上記意向表明について、『私は行かないでいただきたいと思っている。これは初めから一貫している。天皇皇后両陛下が来られて、戦没者慰霊の会が武道館である。あれで必要にして十分ではないかと感じている。なぜ余人をもって代えられない人が(靖国神社に)行くのか』と述べたとの記事が秋田浩之記者により報じられ、さらにこの発言に対して同日夜のTBSのテレビ番組で、小泉首相が『(参拝は)個人の問題。(私は)8月15日に堂々と参拝する』と言明したことも伝えられた。
中国外相、韓国外交通商相との会談で、日本の外相として預かった両国の小泉首相靖国参拝への強い懸念を報告する以前に、小泉首相が『8月15日に堂々と参拝する』ことを言明したことにかなりカチンときた田中真紀子外相は26日夕、ハノイ市内で同行記者団に次のように語ったと、28日付日経新聞朝刊2面が報じた。
『(政府内には参拝の時期や形式面で中韓両国に配慮する案が出ていることに対して)現職の首相は一人しかいない。時期とかやり方という細かいことは小手先だ。』
7月29日日曜日、日本列島に「風」が吹いた。
Japan Problem/国民の政治意識/参院選が終わって、風吹いて
30日付日経新聞朝刊は、当然のことながら選挙一色であったが、片隅に前日、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムなどに出席して帰国した田中外相が、小泉純一郎首相と首相官邸で約1時間会談し、『日中、日韓外相会談で首相の靖国参拝を見合わせるよう要請されたことを伝達するとともに、自らも反対の意向を表明した』との記事が掲載されていた。
同日の日経新聞夕刊2面では、参院選で同じく勝利を収めた与党の一一角公明党の神崎武法代表が同日午前の記者会見で、『小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題に関し、憲法上の問題と近隣諸国の反発を指摘したうえで「公私を問わず8月15日に参拝することは好ましくない」と述べ、私的な参拝であっても参拝すべきではないとの考えを示した』との記事と並んで、同日昼、小泉首相が、8月15日の終戦記念日に靖国神社を参拝する意向を表明している問題について記者団の質問に答えて次のように語ったという記事があった。
『虚心坦懐に小泉内閣を支える(与党3党の)最高幹部の意見をうかがったうえで熟慮して判断したい。』
小泉首相は、つい数日前の27日には『説得する、しないとか、そういう問題ではないし、閣議で決める問題ではない。個人で判断することだ』こう述べていた。
7月29日に吹いた「風」は、「やってから考える」と言っていた小泉首相を、「熟慮する」という反対方向へ吹き戻してしまったようだ。参院選が終わって、「日本遺族会」の大量票の行方を気にする必要がなくなった所為とは、チト考え過ぎであろうか?ちなみに日本遺族会が支援した尾辻秀久氏は、参院選で26万票を獲得し、自民党比例代表第7位で悠々当選を果たした。
実は、小泉首相のこの「熟慮」という表現は、小泉首相が表明してきた8月15日の靖国神社参拝に関する民主党伊藤英成氏の質問趣意書に対し、7月17日に閣議決定された政府答弁書の中に初めて現れたと了解する。
小泉首相が、あの決して言ってはいけないと思われる「参拝してから考える」発言が飛び出したのが7月21日であったから、「熟慮」表明の方が先輩と言えるかもしれない。しかしその「熟慮」表明から後、幾たび小泉首相は「私は8月15日に参拝に行くと言っている」と明言したことか。
それがまた参院選終了直後の30日を境に、「8月15日に参拝に行く」という表現がパタッと現れなくなってしまった。「行く」のではなくて、「行くと言ってきた」という表現に変わってしまった。「私は行くと言ってきたが、(まわりでいろいろ言う人がいるので)いまは熟慮中である」とこう変わってしまった。
(続く)
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