the NIKKEI-watcher


Japan Problem/日本はどこへ向かっているか?


トゲのあるモンダイ
「歴史教科書問題」


7月12日付日経新聞朝刊8面の片隅に、ワシントン11日発=共同として、次のような小記事が報道されている。
『11日付のワシントン・ポスト紙は「厄介な日本」と題する社説を掲載、日本の歴史教科書と司法制度の問題点を指摘した。社説は、歴史教科書の修正要求を拒否して中国と韓国から猛反発されている問題を挙げ、日本の教科書では「南京大虐殺や従軍慰安婦より広島、長崎の原爆投下が強調されている」とし、日本の歴史教科書は日本を犠牲者とみる傾向があると批判した。』

これに先立つ7月9日付日経新聞夕刊1面は、『日本政府は、今春検定を合格した中学歴史教科書に韓国と中国政府が「事実の歪曲や欠落がある」として記述の再修正を求めていた問題で、両国に検討結果を伝えた。韓国の修正要求のうち古代朝鮮史に関する二カ所の記述についてのみ「学説に照らし誤り」と判断し訂正の必要性を認めたが、中韓が重視している近現代史などについては「明白な誤りといえず、制度上、訂正することはできない」と拒否した。』と報道している。

この韓国、中国からクレイムの出ている中学歴史教科書問題とは、どれほど根の深い問題なのであろうか?
「週刊文春」4月5日号が、”緊急提言 超法規的日本再生計画第2弾/勇士7人 腐った日本を叩き直せ!”という過激なタイトルで特集を組んでいるが、その中で作家の高村薫さんの次のような提言が目を引いた。

『わたくしを含めた日本人の一人ひとりがもはや、歴史でさえ、どこからものを考えていいのか分からなくなっているということです。』
『わたくしはこういう世紀に生きていて、あらためて思考の出発点としての歴史ということを考えます。(省略)その際、個人的にはまず満州事変以来の戦争の位置づけを確定することだと思っています。(省略)終戦から55年、戦争に行った人も行かなかった人も、その後に生まれたわたくしたちも、誰もが心の整理をつけられない曖昧な沈黙の中に置かれて言葉を失い続けてきたというのが、昭和28年生まれのわたくしの実感です。今日の日本人の思考停止の系譜はどこから来たのだろうかと遡っていくとき、いつもそこに帰ってしまう最後の世代かも知れません。』

中国の言い分はこうだ。「新しい歴史教科書をつくる会」主導で扶桑社が発行する来年度版中学歴史教科書は、日本の過去の侵略の歴史をわい曲し美化している。それは中国を含むアジアの被害国の感情を傷つけるものであると同時に、日本の若者が正しい歴史観を持つことに深刻な影響を及ぼす。中国は内政干渉するわけではなく、これは、日本が過去の侵略の歴史を正確に認識することでアジア近隣諸国の信頼を得ることができるか、日本人民が中国を含むアジアの人民と今後とも友好関係を保ち、平和発展の道を引き続き歩もうとしているのかという問題であり、日本人民の利益に関係する問題でもある。検定は、最後は日本政府が決めることであり、日本政府が責任と義務を負わなければならないが、中国人を強く傷つけるような内容であれば、我われも国民感情を無視できない。

韓国の言い分はこうだ。旧日本軍による加害行為に関する記述が大幅に減り、朝鮮植民地支配の実態と抵抗運動を削除または曖昧にしている。韓国併合を国際的に認められた合法的なものとして記述し、その侵略行為と強制性を隠蔽している。関東大震災における官憲(軍警)による朝鮮人・中国人の殺害事実を隠蔽している。従軍慰安婦に関する記述を故意に脱落させ、残酷な行為の実態を隠蔽している。このような侵略を美化し、歴史を引き戻すやり方は、日本の「復古」を懸念させるものであり、1982年の「教科書わい曲事件」以来、日韓の歴史学者や歴史教育学者の交流を通じて積み重ねられ改善されてきた部分を、一挙に振り出しに戻すものである。歴史教育の保守回帰は決して日本の国益にならない。誤った歴史教育は日本を滅ぼす道だ。

7月9日付日経新聞夕刊16面は、日本政府の言い分をこう伝えている。
『韓国、中国両政府からの修正要求を真摯に受け止め、教科書検定制度の枠組みの中で誠意を持って検討した。』しかし『「歴史認識や歴史観の是非は判断しない」「指導要領にない歴史事実の取捨選択は執筆者にゆだねる」との原則のもと、当初から修正の余地がない』との姿勢を貫き、修正要求のあった近現代史部分に関しては、『実質ゼロ回答の結論を出した。』

現行の歴史教科書を「自虐史観」と批判してきたグループ「新しい歴史教科書をつくる会」が主導して初めて本格的に自分たちの中学歴史・公民教科書を作成し、この4月、文科省の来年度小中学校教科書検定に申請合格したところから韓国、中国政府との間で”トゲのある”外交問題にまで発展してきたものだが、この「新しい歴史教科書をつくる会」会長西尾幹二電気通信大教授の言い分はこうだ。現行教科書を出している出版7社の新歴史教科書は、相変わらず「自虐本のままであるに相違ない」。

修正要求に対する日本政府の事実上の全面拒否回答通知後の、韓国、中国両政府の対応は多少異なっている。
中国政府は、教科書問題そのものでは大人の態度を見せ、その向こうにあって小泉政権の右傾化の象徴ともなり得る、小泉首相による来る8月15日の靖国神社公式参拝の行く末に焦点を合わせているようだ。それだけに小泉首相が靖国公式参拝を強行した場合、反動として強硬策に振れることも予想され、「あらしの前の静けさ」と言えるかもしれない。

一方、韓国政府は強硬だ。7月12日付日経新聞夕刊1面は、『韓国政府は12日、(軍事交流は正しい歴史認識をもとに、双方の信頼関係と国民の支持がなければ推進できないとの考えから)今月中旬に予定していた曹永吉・韓国軍合同参謀本部議長の訪日見送りや9月の海上自衛隊練習艦隊の仁川寄港を拒否するなど、両国の防衛交流を当面中止すると発表した。』と伝え、翌13日付同紙朝刊1面は、『韓国政府は12日、日本の大衆文化の追加開放を凍結すると発表した。対象となるのは日本語曲のCDや日本の家庭用テレビゲーム機ソフト販売など6分野。』と伝えた。さらに13日夕刊2面は、『韓国の教育人的資源省は13日、日韓両国の教師、学生の交流事業見直しなどの措置をとると発表した。』と伝え、18日付夕刊2面は、『韓国国会は18日の本会議で、日本の中学校の歴史教科書問題に関連し、日本側に記述の修正を強く求める決議案を前回一致で採択した。韓国政府に対しても、日本が修正要求を受け入れない場合、これまでの日韓関係を全面的に見直すべきだと訴えた。人的交流の中断、日本の国連安全保障理事会常任理事国への就任阻止など、日本に対してより強い対応をとるよう求めた。』と報道した。
歴史教科書問題以外にも、小泉首相の靖国公式参拝や韓国漁船による北方四島周辺水域でのサンマ漁の問題を抱え、さらに一連の問題で譲る気配を見せない小泉政権の姿勢が「日本の右傾化の象徴」(金鍾泌元首相)と映り、日本製品の不買運動や日本への観光旅行自粛など日韓関係がらせん状に悪化している状況に、20日付日経新聞朝刊8面が、『韓国政府内の対策チームは19日、日韓間の通商・経済問題とは分離して対応する方針を確認した。また日本の参議院選挙後の動向や教科書の採択状況を見守りたいとして、教科書の採択が終わる来月15日までは、日本への追加の措置を見送ることも決めた。』と報じ、さらに21日付日経新聞朝刊6面は『金大中大統領は20日、「感情的な対応や不必要な分野で(日韓)両国関係を悪化させるのは望ましくない」と指摘し、冷静な対応を求めた。金大統領は「日本にも記述がわい曲された教科書に対し正しい視点を持った知識人や市民の動きがある。」と述べた。』との報道があり、韓国内での動揺の様子が窺われる。

上記すべてのことに対する小泉首相の言い分はどうであったろうか?
7月10日付日経新聞朝刊8面が、『中学歴史教科書の修正問題を巡って中韓両国が日本政府の検討結果に反発し、再修正を求めていることについて「これだけ色々協議したのだから、(再修正は)ないだろう」と延べ、拒否する考えを示した。同時に「トゲのある問題だけじゃなくて、ほかに一緒にできる問題もあるから、もっと大局的な見地から両国との関係改善を図っていきたい」と表明した。』

小泉首相の「靖国神社公式参拝」に関しては、7月17日付日経新聞夕刊2面が次のように報道している。
『政府は17日午前の閣議で、小泉純一郎首相が表明している8月15日の靖国神社参拝に関する(民主党の伊藤英成氏の質問趣意書に対する)答弁書を決定した。この中で「二度と戦争を起こしてはならないという気持ちからも、靖国神社に参拝する考えを有しているが、今後の対応については、現在、熟慮している」と答えた。』
(2001/07/22)

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