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Japan Problem/小泉構造改革
バラ色「都市再生プロジェクト」の素顔
皇太子妃雅子様女児ご出産の明るいニュースに湧く12月2日の日経新聞朝刊第1面にはまた、政府の都市再生本部(本部長・小泉純一郎首相)がまとめた第三次都市再生プロジェクトの原案が1日、明らかにされたとの記事が報道されていた。この所謂「都市再生プロジェクト」は、二大都市圏の東京・大阪の再開発を規制改革により民間主導で進めることを目的としたもので、4日の本部会議で最終決定された。来年1月召集の次期通常国会に関連法案の提出を目指している。
規制改革により民間主導の再開発を促すことを目的としており、本プロジェクトの目玉の一つである。これまで国や地方自治体など公的主体のみが持っていた「強制権限」を、一定の民間事業者にも付与しようというものである。具体例としては、民間事業者による土地買収に伴う強制執行が想定される。しかしこのようなことが、法律を整備するだけで簡単に執行できるのであれば、成田空港における滑走路用地買収に多年を要するようなこともなかったであろうし、担保権行使により取得した一部の土地の処分に、銀行が四苦八苦することもなかったであろう。
<都市再生プロジェクトの骨子> ◇これまで国や地方自治体など公的主体だけに限られてきた、強制力を持った再開発の施行権限(土地買収などの強制的執行の権限)を、住民の同意などの要件を満たす民間事業者に限り付与するなどして、民間活力を最大限発揮できる制度を創設する。
民間事業者が例え「強制権限」を得たとしても、強制執行できることとできないことがあるのではなかろうか?そこら中で再開発の花が咲く、というわけにはいくまい。それと、「住民の同意などの要件を満たす」という条件によって、民間事業者の”質”に対して歯止めがかかっているわけであるが、これもまたやってみなければどういう結果が出てくるかわからないのではなかろうか?「住民の同意」とは、どの程度の範囲をいうのか?民間事業者は、どの時点で、どのようにして「住民の同意」を取得するのか?質の悪い民間事業者が、何らかの手段を行使して「住民の同意」を無理やり取得し、要件を満たした民間事業者となるようなことはないのか?
たしかに、通常の優良民間事業者にとっては、いざという時に利用してリスクをミニマイズできるかもしれないという意味で、悪い話ではなかろうと思う。しかし、その対象地域に住む人々にとっては、少し薄気味の悪い話かもしれない。
いずれにせよ、そこそこ需要を創出するかもしれないが、とても爆発的にとは行くまい。
役所が当初、都市計画案を策定するにあたっても、当然のことながら民間のアイデアが導入されているはずである。もちろんその計画の中には不都合な箇所が多々あるに相違ないが、だからといって民間事業者が、「一定規模の住民の同意」まで取得して、修正の街づくり計画を提出するなどということが、頻繁に起こるとはなかなか考えづらい。
◇民間事業者が、積極的に都市計画案を提案できるような制度を新設する。例えば一定規模の住民の同意があれば、民間事業者が道路や公園などの街づくり計画を提案し、従来の都市計画を速やかに変更できるような仕組みを導入する。法的な手続きを速やかに処理できるよう運用改善も進める。来年1月召集の通常国会に、都市計画法改正案提出を目指す。
これまた、そのような制度が新設されること自体は望ましいことではあるが、できたからといって需要創出効果がどれほど期待できるかは疑問と言わざるを得ない。
本件と、次の「公共賃貸住宅活用計画」は、いづれも今後10年にわたってという話であるから、根本的に喫緊の需要創出には間に合わないと言えよう。「密集市街地を貫く未整備の都市計画道路を早急に完成させる」というのも、線上にある住宅等をどうするかという問題もあり、言うは易く行なうは難しの面が大いにあろう。「高齢者用の住宅を整備する」とか、「工場跡地の低未利用地の有効活用を進める」とか言っているのは、民間がという意味であろうか?それとも国が、国の資金で進めるという意味であろうか?民間は、政府に言われなくとも、市場経済の原理に則ってやれることはやっている。いずれにせよ、今後10年にわたってという話なので、上述のケースと同様、目立った需要創出効果があるとは思えない。
◇全国2万5千ヘクタールある密集市街地の緊急整備について最低限の安全性を確保するのが目的で、特に大火災が発生しやすいやすいとみられる市街地(全国8千ヘクタール)の重点整備を、今後10年間で集中的に実施する。こうした地域が東京、大阪には各2千ヘクタールあり、密集市街地を貫く未整備の都市計画道路を早急に完成させる。高齢者用の住宅を整備する。工場跡地の低未利用地の有効活用も進める。
<実施予定地区>
東京:世田谷区太子堂。豊島区東池袋。足立区西新井駅西口。
大阪:大阪市福島区北西部。寝屋川市/門真市の寝屋川大東線沿道
老朽化した公共賃貸住宅を建て直すためには、まず居住している住民の意思という問題をクリアせねばならない。建物を建て直したり、改修すれば、必ず家賃はアップするはずである。このデフレの不況時に、家賃が少しでもアップするのは困るというのが、借り手の常識的な反応ではなかろうか?まして、中古住宅の検査制度とか状態表示制度とか血税投入して整備して、いったい何をしようというのであろう?なにからなにまで行政が口出す癖は、いい加減に止めたほうがいいと思うが。
◇既存建築物など都市資産の再利用の一環として、公共賃貸住宅約300万戸を今後10年間で建て替え、改修し、図書館や社会福祉施設、公共賃貸住宅などの複合施設に建て替えたり、エレベーターを設けてバリアフリー化する活用計画を2002年度内に策定する。中古住宅の検査制度と性能表示制度の整備など、既存の建築物の再利用を促進する方針も盛り込んだ。
都市環境の改善を柱に据えたのも本プロジェクトの特徴の一つであるが、これから構想策定に着手するわけであり、まだ”海”のものとも”河川”のものとも知れぬ段階と言えよう(シャレをわかってほしい)。いずれも大型の構想であり、需要創出効果に到っては、まったく雲を掴むようであるとのみ言っておこう。
◇大都市の臨海部に大規模な森「緑の拠点」を創出。
<実施予定地区:東京港の中央防波堤内側、兵庫県尼崎、大阪府堺の臨海部>
◇大都市の主要な河川(神田川や渋谷川、道頓堀川など)を再生させる構想策定に着手するとともに、水質汚染が深刻な大都市の海の再生策も検討する。
確かいままでは「規制緩和」と言っていたと思うのだが、今回は「規制改革」と称しているようだ。いずれでもいいのだが、「規制改革(緩和)」こそ、もっとも望ましい需要創出の手段であると常々私は考えているのであるが、老朽マンションの建て替えに関しては、やはり現在居住している住民の意思という、限りなくやっかいな問題が残っており、すんなり全員が建て替え賛成などということは稀であろうと思う。
◇老朽マンションの建て替えを円滑に進めるための区分所有法の改正。
◇工場や大学の立地を厳しく制限する工場(業)等制限法を廃止する。工場(業)等制限法は、都市環境を守るため首都圏と近畿圏で一定の広さ以上の工場や大学の新規立地を制限しているが、現在では大学の都市回帰を阻み、企業との産学連携事業の障害になっている。東京都などが廃止を要望しており、政府の文書として初めて「廃止」を明記した。
またいまは景気が下降して需要が減ってきており、工場の新増設は抑えられている現状であるし、人口減少の傾向から、大学も拡張する状況にはないと考えるので、この「規制改革」の需要創出効果は少ないと予想しておこう。
なにやら昔あった「ふるさと創生」といったようなことを思い出してしまうのだが、3年後、5年後に、この286のプロジェクトの進行状況および採算を見直したときに、大幅な赤字を抱えて国に負担を負わせている案件が少ないことを祈ろう。
◇さらに都市再生本部は、民間の都市開発プロジェクトの立ち上げを支援するため、全国286の事業を選定し、支援することも決めた。
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上記が、バラ色の「都市再生プロジェクト」のすべてである
5日の日経新聞朝刊3面によれば、『小泉首相は4日の都市再生本部会議で、「構造改革につなげるため、民間の力が最大限発揮できる観点から制度改革の方向を決定した」と強調、プロジェクト推進に最大限協力するよう関係閣僚に指示した』という。そのバラ色「都市再生プロジェクト」の素顔は、上述のとおりである。
12月4日の閣議では、竹中平蔵経済財政担当相より、今年度の「年次経済財政報告(経済財政白書)」が提出された。同日、政府の経済財政諮問会議は、2002年度予算編成の基本方針を正式に決定した。また米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスが、日本国債(JGB)の長期格付けを「Aa2」から「Aa3]に一段階下げると発表したのもこの4日であった。
もうひとつ見えてこない。「経済財政白書」を読んでも、2002年度予算編成基本方針を読んでも、「小泉構造改革」が何を目指すのかがもうひとつ見えてこない。竹中経済財政担当相も、「日本はデフレスパイラルの入り口にある」ことは認めている。日経新聞は、先頃の特別企画「浮沈の岐路/経済政策を問う」の中で、『デフレスパイラルは需要不足が要因だ。供給サイド中心の小泉改革だけでは危機から抜け出せない』と断定している。「特殊法人改革」「国債30兆円枠」「医療費3割患者負担」「高齢者マル優廃止」等々、「小泉構造改革」の主張はどれをとっても需要を減退させるものばかりである。景気がデフレスパイラルに落ち込み、株価が一時1万円を割り、金融機関が「債務が債務を呼ぶ」不良債権処理スパイラルに落ち込んでいるのも、「小泉構造改革」の当然と言えば当然の帰結である。
そこで重要となってくるのが、「小泉改革」は、「需要不足」に如何に取り組むつもりか、という点である。当初、もっとも今でもそうかもしれないが、小泉政権は、IT産業を軸とする米国の景気の早期回復にもっとも期待を寄せていたはずである。しかし9月11日の米国同時テロ発生により、この期待は完全に打ち砕かれた。
読者の皆さんは、新聞の取り扱いも小さな「都市再生プロジェクト」の素顔がどうであろうが、大した問題ではないであろうとお考えかもしれない。皮肉屋の私は、最大限の皮肉を込めて、バラ色の「都市再生プロジェクト」と記述した。小泉首相と竹中経済財政担当相に問う。
「小泉構造改革」における需要創出の目玉の政策は何ですか?と。
数週間前であれば、彼らは大きな声で、それは「都市再生」ですよと答えたに違いない。でもいま彼らはそう答えるのを躊躇するかもしれない。なぜなら中身がこれだから。しかし私はそこを敢えて更に踏み込む。「もし他に何か目玉の需要創出策があるのであれば、是非聞かせてください」と。何もないはずである。「都市再生」も含めて、もともとそんな抜本的需要創出の策があるはずもないのだ。なぜなら、もしあれば、この不毛の10年間に既に実行されているはずであるから。
経済学は、法律学でも倫理学でもない。官房機密費をくすねて1億円の競走馬を購入しようが、こつこつ働いて1億円貯めた人が貯金をはたいて競走馬を購入しようが、経済学的には、1億円の需要が発生した事実に変わりはない。政府が高速道路建設に1兆円投資しようが、都市再生に1兆円投資しようが、経済学的にはいずれも1兆円の需要が発生している。竹中経済財政担当相は、政府投資の費用対効果に着目すべきだと言うであろう。私もそれには依存はない。しかしものには限度というものがある。経済音痴の小泉首相には理解不能かもしれないが、道路に1兆円投資した経済効果と、より経済効果の高い案件に5千億円投資した経済効果と比較し、後者はより経済波及効果が高いため5千億円の付加価値が生じ、結果的には1兆円道路に投資したのと同額の需要創出効果がある、などということは断じてあり得ない。もともとこの話自体、竹中経済財政担当相による「投資の効率性」の問題と、現実に存在した人間による「投資の無駄遣い」の問題とが混同されてきたと、私は考えている。「投資の効率性」など、人による「投資の無駄遣い」によって軽くすっ飛んでしまう程度の金額であるはずだ。問題視すべきは、「投資の効率性」ではなく、「税金の無駄遣い」であるべきなのだ。
ということで、素顔を現した「都市再生プロジェクト」では、「小泉構造改革」の需要減退をカバーし切れないことが予測される。という意味は、日本経済はデフレスパイラルから逃れられないということである。日本国債はさらにワンランク格付けを落とした。ムーディーズは、今後18カ月以内にネガティブ方向で更なる見直しを行なうことを示唆している。日本経済にいよいよXデイが設定された。それは単に日本だけのXデイにとどまらないかも知れない。世界恐慌という言葉は、もはや教科書から飛び出し、我われの身近で息を潜めているようだ。
(2001/12/05)