the NIKKEI-watcher


Japan Problem/「行政」の責任を問う
「行政」、それは時として、「うそ」と「怠慢」と「傲慢」と「無責任」で塗り固められることがある。そして、塗り固められた「行政」は、その自らの腐敗によって自壊作用を起こすまで続くのが常であるから、いつしか、「うそ」と「怠慢」と「傲慢」と「無責任」で塗り固められた「行政」が、社会の中のそこかしこで見られるようになる。”悪貨は良貨を駆逐する”という経済原則にのっとり、悪い「行政」は良い「行政」に悪影響を及ぼし、やがて、「うそ」と「怠慢」と「傲慢」と「無責任」が、日本の「行政」を象徴するキーワードとなった。

「狂牛病」......................................................................................2001/10/28
「一頭の乳牛の哀しい旅」.........................................................2002/01/06
「責任のとり方」...........................................................................2002/01/10
「猿でも反省できる」....................................................................2002/03/30
闇の検察「けんか両成敗」(その1).........................................2002/06/19
闇の検察「けんか両成敗」(その2).........................................2002/07/02
闇の検察「けんか両成敗」(その3).........................................2002/07/10
闇の検察「けんか両成敗」(その4).........................................2002/09/14

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「狂牛病」



10月24日の日経新聞夕刊一面に、『農水省は24日朝の自民党農林関係会議で、狂牛病対策のため今年度だけで国が1554億円を負担する方針を示し、了承を得た』との記事が報道された。同記事による対策の内容は、次のようなものであった。

<対策の趣旨>
@狂牛病の感染源とされる肉骨粉の焼却処理の助成。
A消費者による牛肉の買い控えで収入が落ち込んでいる畜産農家や流通業者への支援。
<財源>
@農蓄産業振興事業団の資金の活用。
A今年度補正予算で265億円確保を要求。
<支出予定>
@畜産農家・流通業者支援へ488億円
A牛肉の価格低下に歯止めをかけるため生産者団体が実施する一時的保管に伴う費用の助成。
B農家への所得補填制度を拡充。
C食肉の加工・卸小売業者や肉骨粉の製造業者などへの運転資金の低利融資。
D10月4日から流通を停止した肉骨粉の焼却処分費用や、狂牛病とは無関係とされる豚や鶏が原料の肉骨粉の生産工程で牛が混じらないようにする施設整備費に合計376億円
E食用牛を対象にした狂牛病の全頭検査の開始前に出荷された牛肉の流通を停止したことで必要になる保管費用の助成として92億円。(ただ、これらの牛肉が最終的に売れ残れば処分を迫られ、追加負担が生じる可能性が大きい。)

まず、その金額の大きさに唖然としてしまう。次に、畜産農家や流通業者に対する農水省と自民党の過度の物分りのよさと、その政策決定の尋常でない迅速さに、違和感を覚えるのは私だけであろうか?今回の対策のうち、肉骨粉の焼却費用に関しては当初、国が3分の1、地方自治体が3分の2負担する構想であったが、自治体側の「農水省の不手際の後始末を手伝ういわれはない」との反発から、全額国費負担となった経緯がある。
10月19日の日経新聞「社説」は、『行政の怠慢と不手際のツケが、血税で支払われる。その責任はだれが負うのか』と、同紙には珍しく激しく「行政」を糾弾している。
今までは遥か彼方の地で起きていた出来事が、今や我われの食習慣まで変えようかというほど身近なものとなった。「狂牛病」とそれを取り巻く農水省と自民党のドタバタは、まさに日本の「行政」の恥部をさらしていると言えよう。突如日本に発生した「狂牛病」の足跡を辿りながら、無責任極まりない日本の「行政」に迫ってみたい。

それはまさにプロローグと呼べよう。話は、4カ月ほど前に遡る。
6月19日付日経新聞朝刊38面に、当時としてはどうということのない、小さな記事が掲載された。
農水省の熊沢事務次官は18日の記者会見で、欧州委員会が、日本で狂牛病が発生する可能性を評価したところ、5段階のうち3番目に相当する「客観的にありうる」という結果になったことで、日本で狂牛病が発生する可能性があると通知してきたことを明らかにした。過去に英国から感染牛の骨粉を飼料用として輸入した恐れがあるとの指摘だが、同次官は「日本の安全性は高い。評価方法が疑問だ」と述べ、欧州委の見方に反論。今後、欧州側と協議する考えを示した。
家畜の伝染病である狂牛病は、人間に感染する恐れもある。熊沢次官は「これまで日本では発生していない」と述べた。

当時としてはどうということのない、小さな記事であった。私も読み過ごしていた。この記事の中には記載がないが、欧州委員会の通知は、狂牛病の潜伏期間を考慮しつつ”今年中に”日本で狂牛病が発生する可能性がある、との内容であったという。これに対し、農水省の元畜産局長でもある熊沢事務次官は、「日本の安全性は高い」と撥ねつけ、逆に「評価方法が疑問だ」と反論までしてみせた。
それから約3カ月。9月11日の日経新聞朝刊1面に、日本国内で初めて狂牛病の疑いのある牛1頭が確認された、との唐突なる記事が報道された。

農水省は10日、家畜伝染病で死亡率が高い狂牛病に感染した恐れのある牛1頭を国内で初めて確認した、と発表した。牛は千葉県白井市の酪農家で飼育されていた乳牛で、8月6日に食肉処分される前に、自力で立てないという狂牛病特有の症状があり、動物衛生研究所で検査、陽性反応が出た。
同日夕記者会見した農水省の永村武美畜産部長は、「問題の牛は、と畜した後、すべて焼却処分。一緒に飼育されていた牛を隔離し、肉などが市場に流通しないようにした」と発表した。
農水省は「感染しているとすれば、飼料として輸入した牛の肉骨粉が原因の可能性が高い」(畜産部)と指摘。肉骨粉の流通経路や国内の他の牛への感染の可能性など確認を急ぐ。

8月6日に自力で立てないという狂牛病特有の症状の見られた牛が発見され、と畜されていたにもかかわらず、農水省の発表が何故9月10日になったのであろう?ごく単純な、ごく常識的な疑問である。
この10日夕時点で、農水省の永村武美畜産部長は、「問題の牛は、と畜した後、すべて焼却処分した」と発表したが、後に14日になって、焼却処分されておらず、豚や鶏向けの配合飼料の原料である肉骨粉になっていたことが明らかとなった。
農水省そして次に述べる厚労省ともに、感染経路は飼料として輸入した牛の肉骨粉が原因の可能性が高いとみている。
同日日経新聞38面では、厚生労働省の対応が報道された。

午後8時過ぎからの緊急会見で、高谷幸監視安全課長は「感染の経路は動物性飼料でしかあり得ない」と説明。「同じ飼料を食べていれば、別の牛も感染している可能性はあるのか」と質問されると、うなずいた上、「その場合は感染が広範囲に及ぶ可能性はあり得る」と緊張した面持ちで話した。
狂牛病に感染した恐れのある牛が発見されたのを受け、厚生労働省は10日、狂牛病の研究を続けている「牛海綿状脳症(以下BSEと略す)に関する研究班」(班長・品川森一帯広畜産大教授)の会合を11日午後に緊急に開き、対応策を協議することを決めた。

この報道から1カ月以上先の話になるが、10月17日付日経新聞夕刊5面のコラム「フォーカス」に、上記「BSEに関する研究班」班長・品川森一教授のインタビュー記事が掲載された。

厚生労働省は(10月)18日からすべての肉用牛を対象とした狂牛病の検査を始める。全国の食肉処理場で実施する簡易検査で陽性の牛が出た場合に、確定検査の結果を踏まえて最終的な診断を行うのが帯広畜産大学の品川森一教授(61)。
「陽性の牛が何頭見つかるか見当がつかない」と身構えつつも「的確に検査すれば病気の牛は完全にチェックできる」と自身を見せる。狂牛病研究の第一人者として東京と帯広を2〜3日置きに往復する日々。現場で一次検査を担当する食肉衛成検査所職員への技術講習も担当したが、東京都内での実習中に陽性の牛1頭が発見された。早速確定診断を依頼され、結局感染なしと判明。「本番」を前に早くも慌しい対応に追われた。
日本がアジアで初めての狂牛病汚染国になったことでは、この間の行政の対応のまずさにいら立ちを隠さない。特に感染源とみられている肉骨粉飼料が国内で牛に対して完全に禁止されず一部で使われていたことについて
「私のような専門家でさえ牛に肉骨粉は使っていないと説明を受けてきた。肉骨粉が日本で使われる余地があったとは信じられなかった」と語る。

狂牛病の疑いがある牛が見つかった時、農水省、厚労省いずれの関係者も感染経路は飼料として輸入した肉骨粉が原因の可能性が高いとみていること、これまでに引用してきたとおりである。欧州委員会が日本に警告してきた根拠も、まさに日本が過去に英国から感染牛の骨粉を飼料用として輸入してきたことに拠っていた。
にもかかわらず、農水省が全ての国からの肉骨粉等の輸入の一時停止および国内における製造・出荷の一時停止に踏み切ったのは、なんと10月4日以降のことである。ましてや「BSEに関する研究班」班長・品川森一教授に、肉骨粉が日本で使われる余地があることをひと言も伝えていなかった「行政の怠慢」に関しては、憤りすら感じる。
一方で、品川教授のような専門家が擬陽性の牛の最終確定診断に携わっておられることが判明したことは、診断の確実性への国民の信頼を増すことであり、良いインタビュー記事となったといえよう。

9月11日の日経新聞夕刊16面に次のような記事が載った。
狂牛病の疑いがある乳牛が見つかった千葉県白井市は11日、感染した牛の牛乳を飲んでも危険性はないことや、当該の牛は既に処分され食肉としては出回っていないことなどを、市のホームページなどでPRすることを決めた。白井市は「市内の酪農家だけではなく、全県的な風評被害が出ることが一番怖い」としており、消費者に冷静な対応を求める考えだ』という。

これに先立つ11日同紙朝刊38面でも、『千葉県庁内で急きょ会見に臨んだ農林水産部の石渡哲彦次長は風評被害を気にしているのか、「消費者に影響があるような受け止め方はしないでほしい」とくぎを刺す場面も』との記事が載っていた。記事はさらに、『全国農業共同組合連合会千葉県本部によると、同県内では約2千余りの農家が酪農・畜産を営んでおり、乳牛・肉牛合わせて約10万頭余りが飼育されている。年間の牛乳の生産量は約31万トン、肉牛は成牛のまま出荷され、約8割が県内で、残り2割が東京など首都圏で消費されている』と報じている。

彼らは、誰のために働いているのであろうか?彼らの給料を払っているのは、誰なのか?この時点において彼らは、後に判明するように、当該の牛が「焼却処分」にされず、豚や鶏向けの配合飼料の原料である肉骨粉になっていたことを知っていたのであろうか?今一度上記記事の文面を見ていただきたい。彼らは、こう言っている。「当該の牛は既に処分され、食肉としては出回ってはいない」と。どうも既に肉骨粉となっていたことを知っていたような言い様だ。もしそうなら、彼らは、狂牛病の牛の肉骨粉の持つ意味を理解していなかったとでも言うつもりか?彼らはどこを向いて仕事をしているのか?彼らは一般市民より酪農家のために仕事をしているのか?これは、日本の「行政」を象徴するキーワードである「うそ」「怠慢」「傲慢」「無責任」のどれに該当するのであろうか?日本の「行政」とは、国レベルから市レベルまで、かくの如く腐り切っているという好例ではないかと思う。勢い余って言葉が過ぎたようだが、そのぐらいのことを言われても平然と聞き流して反省・改善する気のないのが、日本の「行政」だと私は考えている。

このへんで、農水省のホームページ”BSE関係Q&A”から、狂牛病そのものについて取り上げてみよう。
問>「牛海綿状脳症(BSE)」とは、どのような病気ですか。
   BSEは、1986年に英国で初めて報告された牛の病気のことです。BSEにかかった牛の脳の神経細胞は空胞化し、脳の組織が海綿状となることから、牛海綿状脳症と名付けられました。2〜8年(通常2〜5年)の潜伏期間の後、牛は行動異常、運動失調などの症状を示すようになり、発病後2週間から6カ月の経過を経て死に至ります。

問>BSEの原因はなんですか。
   ウイルスより小さな感染因子であるプリオンを原因とする説が有力です。プリオンの主要な構成成分である異常プリオン蛋白質は、どの牛も持っている正常プリオン蛋白質が異常化したものです。BSEに感染した牛の脳、脊髄等を含む飼料を牛に与えることにより経口感染するといわれています。
プリオンは沸騰した湯の中で30分煮ても分解されないため、普通の調理法では毒性はなくならない。

問>肉や牛乳は、食べても安全なのですか。
   牛肉や牛乳・乳製品はOIE(国際獣疫事務局)の基準において、もともと安全です。BSEは、英国で実施されたBSE感染牛の材料のマウス等への接種試験で牛からマウスへの感染が明らかとなった脳、脊髄、眼及び回腸遠位部以外の部分からの感染は認められていません。牛肉や牛乳・乳製品について不安を抱く方がおられますが、このことを充分に御理解のうえ、安心して召し上がってください。

問>BSEは、ヒトや牛以外の家畜には感染しないのですか。
   ヒトのBSEとしては、クロイツフェルト・ヤコブ病等がありますが、このうち新変異型のクロイツフェルト・ヤコブ病が、BSEとの関連を指摘されています。英国における新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病については、1995年から2001年までに100余命の死亡が確認されているところですが、これは、危険度の高い牛の脳や眼を習慣的に食べたことが原因ではないかと考えられます。また、豚や鶏といった牛以外の家畜がBSEに感染したという事例は報告されていません。なお、綿羊、山羊、ミンク等でも類似のBSEが知られていますが、これらはBSEとは異なる病気とされています。

上記の中で、私がひとつ分からない素朴な疑問がある。牛肉がそれほど安全なら、なぜ日本政府は、狂牛病がまん延している欧州産の牛肉の輸入を今年の1月から禁止し、その他の国から輸入する牛肉も、狂牛病でないことの証明を義務付けているのであろうか?牛の成分を原料とした化粧品や医薬品の一部も禁輸としている。
これは、単に日本だけのことではない。9月11日の農水省の発表を受け、『米農務省は18日、狂牛病感染防止のため、日本からの牛肉や牛肉を使った飼料などの加工品輸入を禁止したと発表した』と、19日付日経新聞夕刊18面が報じた。米国に続き、豪州も24日、日本産牛肉の輸入禁止を発表した。
これはおそらく、牛肉生産処理過程における汚染部の混入を懸念しての措置であろうと推測する。もしそうなら、ほとんどの牛肉は安全であるとは言えても、全ての牛肉が安全であるとは言えないのではなかろうか?
(2001/10/28)

「一頭の乳牛の哀しい旅」へ続く


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