the NIKKEI-watcher
Japan Problem/「行政」の責任を問う

闇の検察「けんか両成敗」その2)



<渡真利被告の初公判>





元大阪高検公安部長の三井環被告に対する贈賄の罪で起訴された、山口組系暴力団組員・渡真利忠光被告の初公判が6月21日、大阪地裁(伝田喜久裁判長)で開かれ、翌22日の各紙朝刊が一斉にその内容を報道した。
検察側の冒頭陳述に対し渡真利被告は、「間違いありません」と起訴事実を全面的に認め、公判後、保証金2百万円を支払い保釈された。

一方、三井被告の弁護団は初公判終了後、大阪地裁内で記者会見し、「検察側の立証は渡真利被告の供述のみによりかかり、正確な事実関係を捉えていない。三井前検事の主張するところとは全く異なっていて、虚構という他はない」と、検察側の冒頭陳述を真っ向から否定する声明を発表した。
検察側の冒頭陳述によって明らかになった点は、次のとおりである。


【冒頭陳述】渡真利被告は、三井被告が競落した神戸市内のマンションの一室を組事務所として使用していた亀谷山口組系暴力団組長から買戻しを指示され、同被告と接触するようになった。

4月22日の三井氏逮捕の直後には、三井氏が亀谷組長と組んで4,000万円以上とされるマンションを約1,600万円の安値で落札した(毎日INTERACTIVE他)との記事が流されていた。
もし三井氏逮捕にあたって、検察側がその情報を事実と見込んで逮捕したのでなかったというのであれば、4月22日の三井元大阪高検公安部長の逮捕とは、いったい何であったのであろうか?

まず47万5,400円の不動産登録免許税の詐取があった。
これはありそうなことである。許されることではないが、税金はできれば少なく済めば済むほどいいと考えるのは、庶民感覚としてわからぬものでもない。
しかし、たとえ三井氏が登録免許税を詐取したとして、それが現役の大阪高検公安部長の逮捕に値する犯罪なのであろうか?

【冒頭陳述】渡真利被告は昨年6月、三井被告の実母の葬儀に香典10万円を持参して参列したことから、三井被告が検事であることを知った。

この供述には、大きな疑問が残る。
5月10日の日経新聞夕刊15面には、次の記事が掲載されていた。
『三井容疑者は、当初から検察官の身分を明かしており、暴力団側はこうした強大な職務権限を承知の上、職務上知り得た情報の提供を期待したと見られる。』

渡真利被告は、昨年6月になぜ三井氏の実母の葬儀に香典10万円を持参し、わざわざ告別式に参列したのであろうか?
その事実そのものが、渡真利被告がそれ以前に三井氏と接触済であり、亀谷組長側の競落マンション買戻しに対する強い意欲を示していると考えるのが筋ではあるまいか?
三井氏が当該マンションを落札したのは2月で、亀谷組長が渡真利被告を通じて三井氏に接触したのは、5月と言われている。
しかも三井氏は、本件の種々の側面で表しているように、ざっくばらんで大胆な性格であるところから、接触当初から公安部長の肩書を披露し、その職務上の威力を競落マンションに居座る暴力団組長に見せつけようとしたであろうことは、渡真利被告が、葬儀参列で初めて三井氏の肩書を知ったというストーリーよりは、余程、真実味がありそうに私には思える。

だいたい、組長側から三井氏へ接触を始めたと、検察も認めている。
しかも連中は、競売にかけられたマンションに居座り続けた暴力団だ。
交渉相手が素人であるか、検事であるかによって、彼らの接触の仕方がガラリと変わってくるのは当たり前だ。
警察関係者に恫喝マガイのことをするわけはないし、素人相手に暴力団員が紳士の如く交渉するとも思えない。
亀谷組長は、必ずや接触するに当たって、交渉相手の身元を調べたに相違ない。
渡真利被告が、葬儀参列で三井氏が検事であるのを初めて知ったと供述しているのは、大いに疑問である。

【冒頭陳述】接待はいずれも三井被告が積極的に要求した。

これも、組長側から三井氏に接触を開始し、同氏の実母の葬儀に香典10万円を携え渡真利被告が参列したという検事側の冒頭陳述の内容を考慮すれば、接触が三井氏の積極的意思で行われたという渡真利被告の供述は、真実性に欠けると推定できよう。


【冒頭陳述】渡真利被告は、検事の地位や権限を利用して便宜を図ってもらいたいと考え、三井被告の意に沿って高級クラブでの飲食やデート嬢の紹介などの接待をエスカレートさせた。

渡真利被告による高級クラブでの約15万円の接待に関しては、三井氏自身が、二回程度クラブに行ったと語っている。
公判で明白になったように、渡真利被告による三井被告への接触は、競落マンションを使用していた亀谷組長の買戻し指示に端を発したものであった。
しかも亀谷組長(名義人はその親族)は、買戻し契約を締結したものの決済資金繰りがつかず、この時期何度か三井氏との間で契約の更新をしている。
渡真利被告による三井氏接待が、この買戻し契約の実行期限の更新に一切関わりがないと、検察はどのように証明するつもりであろうか?


【冒頭陳述】三井被告は昨年7月18日頃、昼間に、渡真利被告にデート嬢の紹介を依頼。検察庁舎の近くで渡真利被告の車に乗り込み、「ホテルはどこにするんや?勤務中やから近場にしてくれ」などと話し、デート嬢とホテルで密会した。

デート嬢との密会代約13万円については、どうであろうか?
浅学にも、私はデート嬢との勤務中のデートが、真面目に勤務するという国家公務員法違反と道義的責任以外の何らかの法律に違反するのかどうか定かでない。
しかし少なくとも三井氏のデート嬢に関わる罪状には、収賄罪以外の上記不真面目の罪や他の何らかの罪についての言及はなかったようである。

しからば収賄罪はどうか?
これまた15万円の飲食接待のところで強調した如く、この当時の競落マンションをめぐる亀谷組長と三井氏の間のトラブルの見返りでなかったことを、検察はどのように証明できるのであろうか?
さらに検察は、デート嬢に証言をさせることが可能である。
しかしもしデート嬢が証言台に上れば、弁護側の反対尋問の砲火を浴びることは必定である。
当然デート嬢と渡真利被告の関係も、根掘り葉掘り問われるであろう。
その結果は、両人が他の犯罪に関わる結果となることもさりながら、渡真利被告とデート嬢の人格の問題から、両人の証言全体の信憑性を裁判官に疑問視される事態が引き起こされかねない。
なにしろ両人は、暴力団組員とデート嬢なのだから。

三井氏が、デート嬢の件は、「言ったことも、会ったこともない」と明言しているところから、両人が実際にホテルに入ったかどうかについても、私は疑問に思っている。

【冒頭陳述】渡真利被告が、「わしらみたいなもんと付き合ってええんですか」と尋ねると、三井被告は、「やくざであろうと誰であろうと付き合うのはかまへん。これからもええ付き合いをしよう」「ややこしいことや困ったことがあったら言うてこい。警察沙汰になった時にはわしが解決したる」「前科だろうと戸籍だろうと直ぐに調べたる」などと答えた。

”文芸春秋”7月号の朝日新聞・落合博実記者の「大阪高検公安部長が私に訴えたこと」と題する記事を読むと、三井氏がかなり大雑把で大胆な性格であったと推察される。
三井氏は、職務上ではなく個人的な競売不動産ビジネスの場で知り合うこととなった渡真利被告に対して、相当程度気を許していたのかもしれない。

渡真利組員「わしらみたいなもんと付き合ってええんですか?」
三井氏「やくざであろうと誰であろうと、付き合うのはかまへん。これからもええ付き合いしよう。」
このやりとりは、特に問題があるとは思えない。
三井氏に何らかの下心があったかどうかは知らないが、三井氏の性格の一端を表わす言葉と捉えられよう。

「ややこしいことや、困ったことがあったら言うてこい。」
ここまでは、いいかもしれない。しかし、次の三井氏の言葉、これは言い過ぎであろう。
「警察沙汰になった時には、わしが解決したる。」
「前科だろうと、戸籍だろうと、直ぐに調べたる。」

警察沙汰になった時に、「わしが解決したる」という言葉そのものが、三井氏の何らかの犯罪を示唆しているとも断言できない。
渡真利被告が取調べを受けるようなときに、暴力団員ということで予断をもって警官等に取調べられて不利を受けるようなことのないよう「アンジョウしたる」というのも、三井氏にとっての一つの解決の仕方であったかもしれない。
しかし次の言葉は、「公務員職権乱用」という”犯罪”であった。
「前科だろうと、戸籍だろうと、直ぐに調べたる。」


【冒頭陳述】三井被告は昨年7月中旬、渡真利被告から暴力事件を起こして逃走中の暴力団組員の前科などの調査を依頼され、「簡単なこっちゃ。すぐ調べたる」と了承し、不正に前科調書を入手。その内容を渡真利被告に伝えた。

三井氏は昨年7月、大阪府警が監禁などの容疑で追っていて逃走中の、渡真利被告の上部団体にあたる暴力団組員の前科調書を、職務上必要ないにもかかわらず、部下の大阪高検公安事務課長を通じて取得したという。
取得した以上、接待の席でその内容について渡真利被告に語って聞かせたことも、ありそうなことである。

さらには、5月30日に大阪地検特捜部により収賄罪で追起訴された三井被告の起訴事実には、もう一つの罪状があった。
『2000年8月、職務上の必要がないのに、松山市内の競売物件のビルを占有していた女性の夫である暴力団組長の前科調書を、松山地検を通じて取り寄せた』、公務員職権乱用の罪であった。

元兵庫県警警官の田中徹・不動産仲介会社社長と組んで”競売不動産ビジネス”にのめり込んでいた三井氏は、競売物件に纏(まと)わりつく暴力団関係者の前科調書を、職務上必要がないのにしばしば取り寄せて、私的な不動産ビジネスの参考にしていたのではなかろうか?
また、このような背景があったことが、渡真利被告に対する三井氏の「前科だろうと、戸籍だろうと、直ぐに調べたる」という軽いノリの発言につながったのではなかろうか。


以上、検察側の冒頭陳述の内容を仔細に検討してきたが、本事件における最大の問題点すなわち「4月22日の三井元大阪高検公安部長の逮捕とは、いったい何であったのであろうか?」に関して、読者の皆さんはそれぞれ、納得のいく答えを見つけられたであろうか?

三井氏は”競売不動産ビジネス”にのめり込んでいた。
”エコノミスト”6月25日号が、「不良債権で太る”経済ヤクザ”」というタイトルの特集を組んでいる。
その中に、山田斉弁護士の「日本社会に組み込まれた”経済ヤクザ”の実態」と題するコメントがあった。

『裁判所で行われる競売の入札に暴力団も参加する。そして、誰が落札したかをキャッチすると、空っぽだったはずの物件を占有して立退き料を請求する。暴力団は買い手が弁護士や警察を呼ばない金額をわきまえており、その金額を手にすると、迅速に立ち退く。要するに、暴力団は規制適応能力が非常にあり、規制が強くなればそれに適応したやり方をとる。』
『もう一つのやり方として、土地やビルを占有した暴力団自らが、その物件を競落するケースがある。最低売却価格2000〜3000万ぐらいの一戸建て住宅を暴力団が占有していると、誰も入札しない。すると時価が下落しているという理由で、最低売却価格がさらに2〜3割下がる。そこを、同じ系列の暴力団企業が競落する。』

要するに不動産の競売市場というのは、昔から暴力団のはびこる特殊な領域であったということだ。
この素人ではとても手の出せないリスキーな競売不動産市場を財テクの場として乗り込んでいったのが、三井環・元大阪高検公安部長であった。
三井氏のビジネスモデルは、安値の競売不動産物件を購入し、同氏の肩書に記された職務上の威力を武器に、そこにたむろする暴力団関係者を排除することにより不動産価値を高めて転売する、といった方式ではなかったであろうか?

登録免許税47万5,400円の詐取だけでは、三井氏逮捕の理由とはなり得まい。
三井氏は、渡真利被告から高級クラブで約15万円の飲食接待を受けたことは認めているようだ。
しかし、それをもって、大阪地検側が、三井氏と亀谷組長側との間の競落マンション買戻しおよびその更新契約の交渉から切り離して、渡真利被告の前科調書依頼に対する見返りの贈賄であったと立証することは、なかなか困難なことではないかと思う。
まして暴力団員である渡真利被告の証言だけに頼るようでは、立証はたいへん心許ない。そうかといって、どうやって他に接待が贈賄であることを証明できようか?

デート嬢代約13万円については、三井氏がきっぱり否認しているので、これをもって贈賄に関連付けることは、更に難しいことであると言わざるを得ない。
三井氏が、渡真利被告の知人の暴力団員の前科調書を取り寄せた事実は残るが、これまた渡真利被告の証言を除いては、言った言わないの世界になってしまうこと必定である。
三井氏の弁護団は、「検察側の立証は渡真利被告の供述のみによりかかり、三井前検事の主張するところとは全く異なっていて、虚構と言うほかはない」という声明を出している。

三井氏は、確かに渡真利被告の知人の暴力団員の前科調書を取り寄せたのであろう。
また2000年8月に、松山市内の競売物件のビルを占有していた女性の夫である暴力団組長の前科調書を取り寄せたことも事実であろう。
いずれも本人が弁明するように職務上の必要から取り寄せたものではなく、公務員職権乱用と見なされてもいたし方あるまい。
それにしてもそのことが、現役の検察官部であった三井氏逮捕に値する犯罪であるとは、ちょっと思えない。


三井氏にはまた、”不動産ビジネス”における副収入に関わる所得税法違反の疑いも濃い。
さらには、「管理職クラス以上の公務員は、事業者から金銭の供与や接待を受けた場合、報告しなければならない」と規定された「国家公務員倫理法」に違反していた可能性がある。
それらは余りに微罪であり、すべてを考慮しても三井氏が逮捕されるほどの罪状とは思えない。

三井氏は、確かに”競売不動産ビジネス”にのめり込んでいた。そこで暴力団関係者と接触を持った。
しかし、それはあくまでも職務を離れた私的な「副業」の部分であったことは間違いない。
とすれば、三井氏は4月22日、現役の検察幹部でありながら、なぜ大阪地検特捜部により唐突に逮捕されたのであろうか?

7月2日の日経新聞朝刊39面が、”ピックアップ”欄の小さなかこみに、次の報道を流した。
『仙台高検、地検の調査活動費(調活費)に関する文書公開訴訟で、仙台市民オンブズマンは7月1日、大阪地検特捜部が詐欺罪などで起訴した元大阪高検公安部長・三井環被告の「陳述書」を仙台地裁に提出した。
陳述書は三井被告の弁護団が6月10日、大阪拘置所で被告に席巻し、聞き取ってメモにした。調活費の裏金づくりの方法と不正流用の実態について明らかにしたとする内容。オンブズマンは三井被告の陳述を裏付ける仙台高検内の元副検事の陳述書も提出した。』


<元大阪高検公安部長が言いたかったこと>それは、何であったのであろうか?
 闇の検察「けんか両成敗」(その1)<私憤か?義憤か?>
  同 (その3)<大阪府警守口署の”メンツ”>
  同 (その4)<海パンの侵入者>
  同 (その5)<元大阪高検公安部長が言いたかったこと>

をお楽しみに。
(2002/07/02)


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