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Japan Problem/「行政」の責任を問う
「行政」、それは時として、「うそ」と「怠慢」と「傲慢」と「無責任」で塗り固められることがある。そして、塗り固められた「行政」は、その自らの腐敗によって自壊作用を起こすまで続くのが常であるから、いつしか、「うそ」と「怠慢」と「傲慢」と「無責任」で塗り固められた「行政」が、社会の中のそこかしこで見られるようになる。”悪貨は良貨を駆逐する”という経済原則にのっとり、悪い「行政」は良い「行政」に悪影響を及ぼし、やがて、「うそ」と「怠慢」と「傲慢」と「無責任」が、日本の「行政」を象徴するキーワードとなった。
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「一頭の乳牛の哀しい旅」
立とうと思う。前足は何とか踏ん張れる。後ろ足に力を入れて、腰がふらつきながらも漸く踏ん張れたかな、と思う。でも支えられない。その場にすっくと立てない。右に左によろよろと体が揺れる。そして、後ろ足から崩れていく。
なぜ歩けないんだろう?なぜ数日前のように、それがあたり前であった頃のように、なぜすっくと立って、軽やかに前へ進めないのだろう?
今年8月6日、千葉県白井市の酪農家の住み慣れた牧場から、食肉用に処分されるべくと畜場へ連れてこられた一頭の乳牛は、自らの足で立ち上がり歩くことが出来ないことに気づき、ただ呆然とするばかりであった。彼には、自分に何が起きたのかわからない。欧州委員会の調べによると、英国では、1987年以降の累計で17万98百件に上る同様の痛ましい出来事が発生したという。牛ばかりではない。英国政府によれば、同様に自らの足で立てなくなった人間が102人でて、そのうち96人が死亡したという。
人はそれを「狂牛病」と呼ぶ。正式には「牛海綿状脳症」、略してBSE(bovine sponbiform encephalopathy)と名付けられた。
1986年に、羊の骨や肉を牛の飼料として使うことが多かった英国で初めて感染が確認された。以来、英国では、延べ約480万頭に上る牛が処分された。欧州各国でも1780件あまりの発症が報告された。そして欧州委員会の予告どおり、日本政府が否定して2カ月もたたない間に、日本でも初めての狂牛病が発生した。
9月12日の日経新聞朝刊8面によれば、その乳牛は、1996年3月北海道佐呂間町の酪農家(2000年12月に廃業)の下で生まれ、1998年4月に千葉県白井市の酪農家に買い取られたという。狂牛病には潜伏期間が2〜8年あるため、感染原因とみられる肉骨粉の混じった飼料を、北海道と千葉のどちらで食べたかは不明である。
同記事によれば、千葉では、問題の乳牛を飼っていた酪農家に対し、八千代酪農農協が98年から上部組織である全国酪農業共同組合連合会(全酪連)の生産した飼料を販売していることが分かった。全酪連は「牛向けの飼料では肉骨粉を一切使っていない」と説明、全酪連の生産した飼料が原因になったとの見方を否定した。
一方、13日の日経新聞朝刊38面は、北海道庁などによると、佐呂間町の元酪農家は、ホクレン農業共同組合連合会(札幌市)と日本農産工業(横浜市)の生産した合計8種類の配合飼料を与えていたことが分かった、と報道した。二つのメーカーとも、農水省が感染源になったとみている肉骨粉は配合していないと説明した。13日には農水省が、日本農産工業の飼料の成分の報告の中には肉骨粉含まれていなかった。ホクレン農業共同組合連合会の飼料の成分については調査中であると発表した。問題の乳牛は、どこで汚染された肉骨粉入りの飼料を食べたのであろうか?
また同記事は、農水省が12日、都道府県に対し30日までに、国内の酪農家14万2千戸が飼っている合計453万頭の乳牛と肉牛を対象とする立ち入り調査をするよう指示した。都道府県の担当者が酪農家を訪問し、症状が表れている牛がいないかを調べ、疑わしい牛については購入元や病歴などを詳しく調査する、と報じた。
また元酪農家は、問題の乳牛が生まれた1996年3月から廃業に至るまでに74頭の牛を育て、うち72頭を販売したことが分かった。道庁は、問題の牛以外の71頭の所在や健康状態について調べる一方、道内すべての牛127万頭について、異常がないかどうかや、飼料に肉骨粉が混じっていないかどうかの調査を、12日から地元の獣医と協力して始めた。
<肉骨粉生産ラインの共用>
肉骨粉の国内使用量は、年間40万トンで、うち30万トン前後が国産。農水省は、1996年4月から牛向けの飼料に肉骨粉を入れることを行政指導で禁じている。しかし豚や鶏向けでは現在でも配合を容認しており、豚向け飼料などの肉骨粉が牛向けにまじっている恐れがあることから、牛向けの配合飼料を生産している全国130カ所の工場の混入防止対策や肉骨粉の購入量、購入元などの緊急立ち入り調査を12日から始める。
14日の日経新聞朝刊31面に、興味深い記事が載っていた。『今年6月から日本の飼料メーカー各社は、肉骨粉を使用した生産ラインには洗浄を実施し、牛向けの飼料に混入しないよう狂牛病対策を講じていた』という。6月といえば、欧州委員会が日本に狂牛病発生の可能性について警告し、これに対して通産省の熊沢事務次官が否定宣言をした月である。これが契機となって生産ラインの洗浄が始められたとすれば、消費者に対しこれほどばかにした話はなかろうと思う。もしそうなら、日本の行政を象徴する4つのキーワード、「うそ」と「怠慢」と欧州委員会に否定してみせるという「傲慢」と国民に対する「無責任」と、すべてを含んだまさにドンピシャの事例と言えよう。
またこれこそ「牛肉は安心して召し上がってください」と消費者に対して安全宣言しておきながら、一方で汚染国からの牛肉の輸入を禁止している最大おそらく唯一の理由であろう。これまた「うそ」と「傲慢」と「無責任」の事例である。
14日の同紙11面には、『日本農産工業など大手配合飼料メーカーは、工場内や出荷後の混入などを回避するため、豚や鶏向け配合飼料の原料の一部である肉骨粉の使用を当面見合わせる』との記事が載った。『中部飼料は、年度内をメドに牛用飼料の生産ラインと豚・鶏用飼料のラインを完全分離する準備を進めており、工場のレイアウト変更が完了するまで使用を見合わせる』とのことである。
<メーカー、酪農家による肉骨粉の牛向け飼料への配合>
14日の日経新聞夕刊3面”ビジネスダイジェスト”に、次の記事が載った。
『武部勤農相は14日の閣議後の記者会見で、牛向けの飼料に肉骨粉を配合したメーカーや酪農家を処罰する規定を飼料安全法の省令に盛り込み、今月下旬から適用することを明らかにした。感染源となった疑いのある肉骨粉は96年から配合しないように求めてきた。』
ほんとに彼らはいったい何者なんだろう?彼らとは、政治家と官僚である。彼らはもっともっと以前に、そのことがやれなかったのであろうか?農水省は、1996年4月から牛向けの飼料に肉骨粉を入れることを行政指導で禁じてきた。行政指導だけですべてが完璧に行われるわけがないことぐらい社会の常識で、政治家、官僚諸氏は百も承知であろう。そして英国で発生した狂牛病の伝播の怖さは、この遠く離れた日本にすら入り込んできて、人々の生活に大きな影響を及ぼすことをみても明らかだ。ではなぜ、やっと今頃になって処罰規定の立法化に踏みきるのであろうか?遅すぎやしませんか?
ただこの日本においては、飼料メーカーや酪農家が狂牛病の発生によって大きな「痛み」を蒙るかどうかは疑問である。なにしろ彼らは、農水省の勝ち取る1554億円という巨額の狂牛病対策予算により手厚く保護されるであろうことが明らかであるから。
<可哀相な乳牛は、焼却されず肉骨粉へ>
15日の日経新聞朝刊35面が、農水省の遠藤武彦副大臣の14日夜の会見の内容を報道した。
『狂牛病に感染した疑いのある牛に関し、10日に同省が発表した際は「すべて焼却処分した」と誤って公表していたが、焼却処分されておらず、豚や鶏向けの配合飼料の原料である肉骨粉になっていたことを明らかにした。同省によると、問題の牛の骨や肉などを食肉処分場から引き取った徳島県の製造業者が徳島県庁に報告し、同県庁から「問題の牛の骨などを含む肉骨粉を保管している業者がいる」と連絡を受けたのは13日。県庁を通じて調査したところ、14日になって問題の牛の骨などを含む肉骨粉は徳島県の業者が約100トン保管しているほか、茨城県内の施設にも約50トンあることが判明したという。
同省は当初「問題の牛はと畜した後、すべて焼却処分した」と発表していたが、発表した同省の永村武美畜産部長が、千葉県から「廃棄処分した」と報告を受けた際、「焼却処分した」と思い込んでいた。実際は狂牛病が伝染する可能性のある脳、脊髄、眼などを含み、すべて肉骨粉になっていたという。英国では、狂牛病に感染した牛から製造した肉骨粉を食べた牛が次々と狂牛病に感染、大量の牛を処分する事態になった。』
なんと動物衛生研究所で狂牛病の陽性反応が出た牛の骨などが、肉骨粉の原料として業者に渡っていたと。農水省、厚生労働省の管理体制はどうなっているんだ?千葉県庁が農水省の永村武美畜産部長に、「廃棄処分した」と報告したという。「廃棄」の一形態が「焼却」であるから、「廃棄処分」と「焼却処分」を混同したのは、わからないでもない。しかし、肉骨粉にしてよその業者に売り渡すことが、業界では「廃棄処分」と呼ぶのか?購入した牛のすべてを有効利用するという意味で、食肉部位以外の余ったものすべてを「肉骨粉」という商品にして売却することが、「廃棄処分」だと言うつもりか?
17日付日経新聞夕刊14面によれば、問題の乳牛の骨などを肉骨粉として飼料用に加工した茨城県波崎町の飼料製造工場の幹部が16日「千葉県の食肉処理業者は8月6日に(問題の牛を)持ち込んだが、茨城県の保健所から問い合わせがあったのは9月11日だ。(連絡が遅く)農水省と千葉県に責任があると思う」と話していたとのことである。
12日の日経新聞朝刊33面に、次のような記事があった。
『千葉県は住民に正しい知識を提供することが第一として、県のホームページにQ&A形式で狂牛病の解説を掲載する。ラジオのスポット広告としても流していく。いずれも一週間程度で情報更新していく。』
「正しい知識」だと。ラジオのスポット広告だと。「牛肉は安全だから、安心して召し上がってください」てな内容の広告なのであろうか?それらすべての費用は、千葉県民の納税によってまかなわれる。そこには、理屈では理解不能の世界があるようだ。
<元酪農家の下で飼育された牛の追跡調査>
19日の日経新聞朝刊39面によれば、狂牛病の疑いがある乳牛を生産した北海道佐呂間町の元酪農家が、乳牛が生まれてから酪農をやめるまでの4年9カ月間に販売した牛は72頭であったという。北海道は18日、道内で販売された牛が35頭、道外に出荷した牛が29頭、調査中が8頭と発表。道内で販売された35頭のうち、死亡が産後の心臓衰弱と難産による2頭、食肉などに加工処分されたのが24頭、残る9頭が飼育中で隔離措置が取られた。いずれも狂牛病の疑いとなる以上は確認されてないとしている。
道外の14府県(栃木、千葉、群馬、埼玉、静岡、愛知、三重、広島、山形、京都、鹿児島、兵庫、宮崎、長野)に出荷された問題の乳牛を除く28頭のうち、8頭が飼育中で隔離措置が取られた。6頭が死亡し肉骨粉などになった可能性があり、6頭が食肉に処理された可能性がある。残り8頭については調査中である。18日の日経新聞夕刊19面が、兵庫県畜産課が18日、元酪農家が販売した乳牛のうちの1頭が兵庫県内に出荷されていた。乳牛は1998年9月に死んでおり、同課は「狂牛病だった可能性は極めて低い。肉骨粉には加工されていない」と発表したと伝えている。
農水省は19日、狂牛病の疑いのある牛を飼っていた千葉県と北海道の酪農家が飼育した計120頭(千葉県49頭/北海道71頭)の牛について、現在、生存している牛すべてに狂牛病の」検査を実施、その後検査結果にかかわらず、全頭を焼却処分すると発表した。
ーー9月19日付日経新聞夕刊18面よりーー
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その牛は、どこかで食べてはいけない物を食べてしまった。いや、食べさせられた、といった方が正しいに違いない。そして、その一頭の乳牛の哀しい旅は、死んだ後も、肉骨粉となって続いた。なんという人間の醜さであろうか。行政とは、そのように「醜い」ものなのか?一頭の乳牛の哀しい旅は終わったが、行政の「怠慢」と「無責任」により狂牛病を抱え込んでしまった我われ日本の国民の旅は、これから始まる。狂牛病先進国である英国においても、狂牛病に罹った102人(うち96人死亡)という人数は、確率的にはそう高いものではない。しかしその哀しい旅をした一頭の乳牛のように、ある日突然真っ直ぐ歩くことができなくなり、立っていることすらできなくなって、やがて死んでしまう・・・そんな「人間」が数年後に、あなたの周りに必ず表れることだけは、間違いない。
(2002/01/06)
(注)時期をみて続きを書きたいと希望しています。